7.異世界と言えば耳の長い奴②
金貨1枚(恐らく数万円)という人参に釣られ、結局そのまま第一患者であるソニアへの魔眼レンズ処方に移るのだが。
「ソニアの為には視力を矯正しつつ超遠方を視認可能とする魔眼レンズが必要だッ!」
「普通のコンタクトレンズと狙撃用のスコープでいいんじゃね」
冷静に意見してみると、アイナは退屈そうにため息を吐いた。
「それを魔眼レンズでやろうって話じゃないかカンペぇ~。大体、ニッポンじゃないこの世界でどうやって普通のコンタクトレンズを作るんだい?」
正論である。
俺は作り方なんぞ知らないし、この世界では機材も素材もまだないだろう。
「仮に君がニッポンからそれらを持ってきたとしよう、その供給を維持できるかな? 費用は? 経費は?」
正論パート2である。行き来できるのなら……とも思ったが、ソニア嬢の面倒をずっと見るかって話になるわけで。これが熱血の医者なら『ずっと診ます!』とでもいうかもしれないが。1人の患者の為にわざわざ業者のようなことはできない。
「それを魔眼レンズで解消するってわけな」
「そう! 君たちの世界と異なるのは魔眼があること。ソニアの希望に沿う魔眼を見つけよう」
意気揚々と診療所の中へ戻り、保管している魔眼を調べたものの『選定の魔眼』が反応することはなかった。数十種の魔眼があったが、どれもソニアには合っていないようだった。
「う~ん……困ったねぇ、私が開院前に揃えた魔眼は適応してないらしい」
「これ、全部どんな魔眼なんだ?」
「発火、念力、暗示、読心……あとは……」
「もっと普通の能力の魔眼はないのか」
「魔眼だからね!」
またしてもこの決まり文句。このままでは定番ネタにされそうな気がする。
患者の欲する物、そしてグレイ診療所に保管されている魔眼が一致するかと言われると、それはまた別の話なのだ。おまけにその魔眼が患者本人に合うかどうかも関わるのだから面倒な話である。
「やっぱり無理なんでしょうか」
「遠くを見たいってのと、狙撃に使える目にしたいってのはなぁ……人間の眼の構造的には……」
よく見える目ったって、2つを解消するなんて……
「諦めるのは早いッ!」
手詰まりかと思えば、アイナはソニアの手を両手で握った。
その眼は本気、真面目なまっすぐな眼差しでアイナはエルフの少女を見つめる。
「ここにあるコレクションで対応できないことなんて想定済みさ。無いなら調達する……ソニアに合う魔眼は、『選定の魔眼』で探すのさ!」
「ふぇっ⁉」
「さぁカンペー、支度したまえ! 街へ繰り出すぞぅ!」
「……風呂入りたいんだけど」
ハイテンションの先生は既に聞く耳持たず。
俺、異世界の街に行きます。
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