第2章 駆け出しド近視エルフ、魔眼を求める
6.異世界と言えば耳の長い奴①
せっかくいい感じに1章を締めたと思ったら患者の来訪。
ボロいマントを頭まで被った、怪しさ満点の存在が俺達の前にやって来た。
「も、もしかしてお食事中でしたぁ⁉」
「もしかしなくてもな、あんまり美味くないけど」
「カンペー、結構うるさいよね」
この際待遇面で遠慮する必要もあるまい。
アイナの小言は放っておいて、パンをかじりながら患者を見やる。
おずおずとマントを脱いだ患者。そこから現れたのは1人の少女。150センチの小柄、三つ編みにぱっつん前髪。小さい顔に不釣り合いな大きく分厚い眼鏡から覗く小さな目。そして何より、左右に伸びる尖った長い耳。
「ど、どうも……エルフのソニアっていいます」
「おはようソニア。私はこのグレイ診療所の医師、アイナ・グレイだ。そして隣で文句を言ってるのが魔眼フィッターのカンペーだ」
簡単な自己紹介を終えると、ソニアはペコペコと頭を下げた。
はぇ〜、マジでエルフなんているんだなぁ。ほんっとに耳尖ってやんの。
「あの、あのわたし、ここで目を診てもらえるって宣伝を見かけて……」
「広告出すの早くないすかね先生?」
「君の世界でも言うだろ、『オモイタッタガキチジツ』ってやつさ。選定の魔眼が使える人材がいるならさっさと仕事を始めたいからね」
抜け目のない雇い主である。
てっきり今日はもう日本に帰してくれるのかと思ったらいきなり仕事だ。雇用契約書を作らせとけばよかった。
「朝食中で悪いけどこのまま話を聞かせてもらっていいかな?」
「は、はぃ……!」
余った椅子にソニアを座らせ、朝食を続けながら問診へ。
「それで、今日はどうしたのかな?」
「あ、あの! 目を良くする魔眼ってありますか⁉」
「……………………」
現代日本と異世界の差なのか……会話を眺めている自分からすると、そんなもん魔眼なんていらねぇだろと大いにツッコみたくなる。
「それはどの程度? 日常生活に不便がないくらいかな?」
「えぇと……わたし、まだ新米の冒険者なんですけど、すごく遠くの敵を弓で射るんです」
「ふぅむ、見た目通りの射手なんだね。距離はどれくらい?」
「たぶん……■■■くらいです」
なんだ? 聞き取れなかったぞ。
「アイナ、どのくらいだって?」
「あぁ、ごめん。君には聞き取れない単位だったね。大体1キロだよ」
話変わってきたな。
それじゃ視力を上げただけじゃ無理――
「っつうか、弓でそんな遠くの的まで届かないだろ」
「で、できます! 魔法で強化するので!」
「魔法で」
便利だなぁ魔法…………
かと言って、飛ばせたとしても目が悪ければ的が見えない……と。
「眼鏡掛けてるじゃん」
「こ、これは重いしなんだか見えにくいし……戦いになったらうまく動けなくて……故郷を出るときにもらったんですけどぉ」
「ちょっと貸してみ」
ソニアから眼鏡を借りる。銀色のフレームからして金属製であり、第三者から見た小さな目の正体は分厚いレンズだった。計測機器がないから詳しくは分からないが、最強度近視に近いだろう。
「ド近視か……目が悪いなら単純にコンタクトレンズにすりゃ見え方は良くなるけど…………」
「狙撃という点を考慮すると、それだけでは済まないね」
「魔法でスコープとかないの?」
「そんなに器用じゃないんですぅ」
本来の瞳が晒されながら、ソニアはうるうると泣きそう。深緑色の瞳はぱっちり大きめ。やはりエルフが美人という通説は間違いじゃないらしい。
「ま、まだ駆け出しの冒険者で、頑張ってるんですけど、うまく狙えないからパーティーから外されちゃって……」
で、出たぁ追放。
待てよ……いや、追放っていうよりただの
「カンペーェ! 彼女を助けなくて誰が魔眼フィッターだぃ⁉」
「声がでけぇ」
「ソニア!」
「ひゃ、ひゃいっ⁉」
「君の目の悪さと職業は絶望的に合っていないしかぁっし! この魔眼研究第一人者の私とこのカンペーが君に合う魔眼レンズを作って見せよう!」
立ち上がって両手を広げ、アイナは声高らかに叫んだ。
これ……マジでこのまま朝から仕事する流れなワケ? 俺の華金は?
「待て待て待て待て! このまま仕事するなんて聞いてないぞ⁉」
「初めてのお仕事だ、金貨1枚あげよう」
「乗った!」
社会人はお金に弱いのである。
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