2.眼科と魔法とコンタクト②
「この前パーマかけたばかりだから燃えるのは勘弁…………ん?」
髪はチリチリになっていない。服も焦げ臭くない。
助かった……のだろうか。
「さっすが私だ。民間人ひとりをハンデにしても邪悪な魔法使いから逃れられる俊敏さと防御技術。はぁ、自分が怖い」
周りは暗くて良く見えないが、流暢な日本語が聞こえる。それは数時間前に話した、あの灰色髪の女と同じ。
「さぁさぁようこそ我が家へ。ええと……検査員さん」
「
「カンペー?」
「……面倒だからカンペーでいいよ」
みんなそう呼んでるし。
「ならそう呼ぼうカンペー。自己紹介がまだだったね、私の本名はアイナ・グレイだ。いやぁ危なかったね、まさか
出会った時とは異なり、アイナの眼は両目とも青色。
聞き慣れない単語を口にしつつ、アイナは指先を蝋燭にあてて火を灯す。この時点で何か変なことが続いているとほぼ確信している。が、仕事終わりの社会人には疲労で思考する元気はない。
炎で少し明るくなった空間。
周囲はガラスの円柱型の容器が並んだ……大抵の人間がイメージする研究室のような場所だった。塵ひとつない場所は職場を思い出す。中身は球状の物体が揺蕩っている。
「ごめん、、まず俺生きてるの?」
「ニッポン人は真面目な人種と聞いていたけど、冗談も言えるんだね」
「あのなぁ……」
……って、この人普通に喋ってるな。カタコトはキャラ付けか?
「……あぁ? こっちの世界に戻れば元の言語だから。ニホンゴムズカシイ」
流暢な言葉が急にカタコトに。原理は分からないがアイナは言葉を使い分けている様子。しかし……こっちの世界? まさか、別の世界に来たとか言わないよな。
「君の疑問を手短に答えるなら、君は生きてるし、ここは地球とは異なる星だ。君を助けるために君ごと移動したわけさ」
「異世界にワープした的な?」
「そうなるね」
なんとも事務的な返事である。
マジでこんなことあるんだな……と、上の空でいると、少女が不満そうに詰め寄る。
「おぃーちょっとは驚いてくれよぉ。魔法だぞぅ? 非日常だぞぅ?」
「1日働いた後で、んな余裕ねーよ……」
「……やっぱり君、私を見て何ともないの?」
「面倒なトラブルに巻き込んだ面倒な奴って感想はあるけどレポートにまとめるか?」
仕事上がりの服そのまんまだし、よく聞く転生とかじゃなくて本当に
「まぁいいや……君を助けたのは他でもない、これから出会う患者に
「……はぁ?」
魔法、異世界ときて魔眼と続きますか……そこは剣か魔王かエルフだろうに魔眼て…………魔眼?
「おい、まさか眼科で働いてるから引っ張ってきたんじゃないよな」
「目について知ってるでしょ?」
「なら院長連れてこいよ!」
「あーそれは問題ない。私が必要なのは『コンタクトレンズ』を知ってる人材だから」
「それなら……」
「そもそも、医者なら不要だよ。私が医者だからね。魔眼専門とした医者さ。魔眼蒐集家でもあるけどね」
そして室内の明かりが全て灯される。
木目調の壁に囲まれたそこは、診察室にも似た配置。
「ここは我が拠点さ、ようこそグレイ診療所へ!」
「いや……ようこそと言われても」
お前に連れ去られたんだが?
「早速君には私に合う魔眼レンズのを選定してもらいたい」
「まがんレンズぅ?」
アイナは怪しげな笑みを浮かべつつ、ガラスの容器へ手を伸ばす。ぷかぷかと浮かぶ中身がこちらを振り向くと、そこにあったのは見慣れた眼球の模型……ではなく、本物のそれだった。
「うぉっ、ガチの眼かよ」
「驚くことはないだろうに。君も――もうつけてるじゃないか」
笑みは変わらず、アッシュグレーの髪を揺らしてアイナは鏡をこちらに向ける。
そこに映っていたのは、パーマのかかった黒髪の俺。仕事終わりのくたびれた表情と共に、金色の両眼が輝いていた……
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