第6話 リードのうしろとまえ


 テラノヴァは10日ぶりに仕事にもどった。自由な旅とくらべて、室内での仕事は制限を感じてストレスをおぼえたが、童貞喪失のすてきな思い出が、あたまをふわふわとただよっていて、それを反芻しながらはたらいていると、やがて仕事に集中した。


 夜になるとかばんの整理をする。

 まずは野蛮なお守りを取りだして、職人通りをながれる川のそばにもっていった。魔石ランプの灯りのなか、黒々とした水面にかごをつける。

 しずかな夜の街に、水音がひびく。

  

 土や体液のよごれを水で浮かせ、布でふきとって別のかごに入れる。その作業をくりかえす。楕円形のお守りに、緑がかった黒曜石のようなきらめきが戻った。

 大小あわせて90個ちかいお守りを洗い終わったときは、深夜になっていた。


 いままで知らなかったが、川が流れる水音は意外におおきい。静謐な夜中では、よりはっきりと聞こえる。

 人通りのない夜の街は、喧噪のかわりに自然の音が支配していた。

 川の流れ、街路樹のざわめき、夜行性の鳥の羽音、昆虫の鳴き声──昼間におしつぶされていた音が、夜にはっきりと聞こえる。


 テラノヴァはそれを好ましく思った。孤独を感じられる。ひとりになれる。昼間よりも多少の危険はあるが、対処できるならば夜は快適にすごせる。


「さようなら」


 暗渠あんきょにひそむジャイアントラットがみつめていたので、手をふってあいさつした。


 かごを部屋にもちかえった。

 もう一度、よごれや傷を確認して、できるだけ不純物をとりのぞいた。短剣や針をつかってよごれを削る。集中していると朝がちかくなったので、2時間だけ眠って仕事にいった。


 次の日は、お守りを薬液につける。

 1週間後、こまかく砕けちったお守りは、黒緑石の粉末になって沈殿していた。

 それを魔導遠心分離機にかける。


 これはかなりおおきな音がするため、静寂のスクロールを使った。夜中の騒音は死の危険があると教えられた。


 ひとつの容器にはいった粉末から、ごくわずかに純度のたかい重黒緑石がとれた。

 この純粋な黒緑石には、混沌の因子がふくまれており「どんなものにでもなれる」という可能性がある。2日で分離作業がおわり、そのあいだ睡眠時間はゼロになった。これで覚醒ポーションを飲むいいわけができたので、ひと瓶飲んで、異様な活動能力をたのしんだ。


 純粋黒緑粉末を無属性ガラスのうえに置く。


「……」


 さらにべつの素材を小瓶からとり出した。これは縮小水晶のかけら。

 妖精の体内からとりだした石で、劣化してちいさくなり、本来の性能をうしなっていた。吹けば飛ぶほどのちいさな白い結晶を、ガラスにのせてふたをした。

 あとは一晩まって、運がよければ、縮小水晶がコピーされて増えるはずだ。


「成功すればいいけど……」


 テラノヴァはそうつぶやいて、ひさしぶりに長時間寝た。


 次の日、ガラスのうつわのなかには縮小水晶だけが残っていた。純粋な黒緑粉末はきえている。コピー失敗である。


「むー……」


 残念な結果にうなってみたが、失敗はみなれた光景である。成功するまでやるだけである。

 テラノヴァは毎日、仕事が終わったあとに、工房にこもって試しつづけた。


 休みがきても、新しい週がはじまっても、今のところ成功はなし。加工した黒緑石の在庫は半分になっていた。


 変化の成功をまつあいだ、レーニを誘って食事にいく。

 何回か食事をともにすると、知っている店がなくなったので、宿でデリバリーをたのんで、部屋でいっしょに食べようと提案したら、逆にそとに連れだされた。

 獣人がウェイトレスをしている知らない店だった。


 テラノヴァのまえには、ふかい皿に入ったよくわからないごった煮──茶色い網肉と、煮崩れそうな野菜の入った煮込み、となりには白いパンのような丸い物体。

 さらに水の入った皿が置かれる。


「ゴユクリ、ドウゾ」


 茶色い毛皮のねこみみ獣人があたまをさげたとき、はち切れそうなほどふくらんだ乳房の谷間がみえた。給仕服からはみ出した猫尻尾と、むっちりした太もも。部分的にに黒い毛皮でおおわれていたが、肉の圧力を感じさせる肉体だった。


「フォークやスプーンが見当たりません。店員さんをよびます」

「違いますよ。ふふふ」


 レーニが笑っている。


「これは手で食べる料理なんです。スライムみたいな芋の団子をちぎって、煮物につけて食べるんですよ」

「……知りませんでした。ではこの水は手を洗うためですか?」

「そうですよ」


 レーニは指を洗っている。

 テラノヴァもそれにならって手袋をはずした。手を食器のかわりにするのは不思議な気持ちだった。


 湿った指で、おそるおそる白い塊にふれる。子供のほっぺのようにもちもちとしている。つまむと伸びる力はあまりなく、簡単にちぎれた。

 そのままかじってみると、たしかに芋の味がした。ほのかなあまみがある。

 粘度の高いスープをすくうようにつけて、口に運ぶ。辛味のつよい複雑な香辛料の味がした。


「刺激的な味です」

「はい。変な食べかたですけど、おいしいですよね」


 ポーションに使う香辛料の種類はわかったが、それ以外は未知の味だった。


「お肉もおいしいですよ」


 ごろごろと入っていたのは、輪切りになった牛の脚らしい。

 たっぷりと煮込まれているので、厚い皮がゼラチン質になっている。骨ごともちあげると、すべて皿にはがれ落ちた。皮はほとんど噛みごたえがなかったが、しっかりと味がしみている。


 輪切りになった骨の中には、こぼれそうな骨髄があった。芋団子を平らにして、そのうえに落とすと、自重で骨髄が崩壊してゆく。

 包んで食べてみると、あわく消えていった。濃厚な味だけが口内にのこった。脂味がつよい。


「こんな料理ははじめて食べました。珍しい味です」

「えへへへ、テラノヴァさんにいただいたお金で、食べ歩きしちゃいました。ちょっと使いすぎたけど、美味しいお店を見つけられてよかったです」


 スパイスの刺激がつよいが、慣れれば病みつきになる味だった。

 すべてがやわく統一されていて、量があるのに食べやすい。そういうテーマの料理だと思っていたら、スライムのような芋団子を食べすすめ、底部にちかづくにつれ、サクサクとした食感が混ざりはじめた。

 

 細かくきざんだレンコンだった。歯と歯のあいだでつぶすと、心地よい弾力がある。


「ほんと、おいしいですねぇぇぇ!」


 葡萄酒を飲んでいたレーニが酔っぱらって、おかしくなっている。

 テラノヴァは飲まないので知らないが、葡萄酒のどっしりとした味がおいしいらしい。

 代わりにお茶をすすった。ほのかな甘みと酸味のある味は、脂っぽくなった口内を清めてくれた。


「お仕事が決まったと言っていましたが、どこのお店ですか?」


 さきほどまで話していたのだが、会話のとちゅうで料理がきたので、聞きそびれていた。


「えっと、まだ返事をしてないですけどぉ、歩行植物研究所ってところが、お給料がいいので行こうと思っています。薬草をつくっているって聞きましたけど、評判を聞いたりしていますかぁ?」

「歩植研はときどき素材を下ろしてもらっています。悪評は知りません」


 なんどか注文の書類を作った記憶がある。歩植研が売っている素材は、植物由来が多く、手に入りにくい稀少な植物のがく・・なども生産していた。配達にくる職員は誠実で、代金を不当請求したり、かすめとるような人物はいなかった。


「歩植研っていうんですね。ひっく、もう決めちゃおうかなぁ……収穫の時期になったら、果物とか、お砂糖とかを、もって帰っていいって言われました。テラノヴァさんは果物が好きでしたよね」

「はい」

「だったらお土産にあげますよぉ」

「ありがとうございます」

「肉体労働だって言われましたけど、私は洗濯屋だったので、からだを動かすのには慣れていますし、大丈夫だと思います。最近は腕が太くなってきちゃいましたけど……」


 困ったようにレーニが眉をさげ、はにかんだ笑みを浮かべた。

 この都市にきてから、レーニの体つきはふっくらしはじめた。

 以前がやせすぎていた反動か、発達が阻害されていた筋肉が成長し、強靭な束になっていた。

 テラノヴァはやわらかいほうが好みなので、その変化を首肯した。


「今のレーニさんは健全に成長していて好ましいです。やさしい雰囲気がします」

「どういう意味です?」

「素敵な外見になりました」

「よくわからないので、くわしく教えてください」


 髪のつやがきれい、行動力がすばらしい、笑顔が安心する等々、好ましい点を順番にあげていくと、レーニは満足そうにうなずいた。

 途中でそういう会話に誘導されていると気づいたが、とくに嫌ではなかったので褒めつづけた。


「んへへへへ、もう歩けないですよぉ。どこかで休憩したいですー……」


 食後はおひらきにするはずだったが、酔っぱらったレーニに誘われ、つれこみ宿に入った。ふたなりポーションは持っていなかったので、愛撫でつながりを確かめあう。魔力で開発されたレーニの神経は、ポーションの効果がなくても敏感に共鳴して、快楽を呼んだ。


「あっ、あっ、すごい! ッ気持ちいいですっ! いっ、イクっ! またイキます! あっ……ッ……あああまたあっ!」


 レーニは2時間で27回の絶頂に至ったのち、焦点の定まらない目で天井をみつめていた。テラノヴァはたくさん奉仕ができて満足だった。喜んでもらえるとうれしい。


 腰がぬけて立てなくなったレーニを、馬車で宿におくりとどける。恒例行事になりつつあった。

 つれこみ宿の店主は、尊敬のまなざしでテラノヴァを見送っていた。テラノヴァがかりた部屋からは、壁を突きぬけてあまい嬌声がひびいている。それはほかの客の情欲をかきたてるほどだった。

 事がおわれば、あいては腰がぬけるほど消耗して、まともに立てない。


「……ありゃ性の魔導士だな」

「そうねぇ……」


 いっしょに宿を経営している妻も、あきれるほどの痴態をみせつけられ、ほほを赤くしていた。飽きるほど仕事で性行為のちかくにいたため、ながいあいだセックスレスだった夫婦は、十代のころの気持ちを思いだし、おたがいを照れながら見ていた。


「おれたちもがんばらねぇとな。どうだ、ひさしぶりに……」

「いやだわぁ、あなた」


 ふたりは30代にはいったばかり。それが初々しく目配せしあっていた。



 テラノヴァは、その足でリードのいる店に向かった。

 扉をあけると褐色の少女が、ハンマーを持ったまま走り寄ってきた。そのまま抱き着く。


「うっ!」


 がばりと両手を回されたので、背中にハンマーの一撃をくらった。


「リ、リードさんこんにちは。元気でしたか?」

「うん!」

「ハンマーを置いてください」


 リードは抱きついたまま、脚を絡めてくる。幼いからだの暖かさと柔らかさは、レーニとはまた違う熱量があった。

 リードはマントに顔を埋めて、くぐもった笑いを浮かべている。


「シレンさんに用があるので、放してください」

「やー」


 離れてくれないので、リードをくっつけたまま店のおくに向かった。

 挨拶すると、シレンは顔をあげた。


「このあいだのガザミのはさみ、ありがとうよ。篭手ガントレットに加工したら物好きが買っていったわ」

「よかったです。見慣れない素材でしたが、なにか特別な効果はありましたか?」

「水と土の耐性だな。あれだけ育ったガザミなら、自然につくられた効果をもっているもんだ……それで今日はなんの用だ」

「リードさんを遊びに誘いにきました。つぎの休みの日を教えてください」


「ふん……でかい仕事は入ってないから、いつでもいいぞ。あんたの都合がいいときに、連れて行ってやってくれ」

「また外にいくの? やった!」

「それでは、予定がたったらまた誘いにきます」

「おう。そうだ、植木鉢ができているぞ。持って帰るか?」


 テラノヴァは少し考えたが、手荷物もないのでうなずいた。ペンギンのたまごの殻でできた植木鉢は、金属の装飾で縁取られていた。


「待ってるから! 早くきてね!」


 リードは店を出るまで抱きついていたが、そとにでると名残惜しそうに手をふっていた。


 純粋黒緑石の変化実験をはじめて22日目の朝、器のなかをながめると、ブリリアントカットされた金剛石のごとく、きらめく白い水晶がガラスのうえに転がっていた。


「……」


 テラノヴァは声にこそ出さなかったが、うれしさで身体がむずむずした。完全な縮小水晶を、はじめてコピーできた。

 体内からとりだすまえの縮小水晶は、このように宝石のような輝きと、繊細さをもっていたのかと感心した。破壊するのがもったいない美しさだった。


 これでふたなりペニス縮小ポーションがつくれる。


 テラノヴァは縮小水晶の完品を乳鉢に入れると、魔力でおおって破砕した。奇麗な結晶がくだけちった。

 作業しながら可能性を考える。


 ポーションが完成すればリードにも挿入できる。一番ふかい場所での快感を味わわせてあげられる。

 さらに応用すれば、妖精や精霊といったからだのちいさい種族にも、入れられるかもしれない。


 身長20センチにも満たない妖精と、生殖活動ができたなら、神話生物を嫁にした古い時代のものがたりを再現できる。古代の文献には妖精と結婚し、子供を作った話がある。


「妊娠機能がないのが悔やまれます……」


 縮小されたふなたりペニスをつかい、異種姦で子供をふやす方法をかんがえていると、必然的にぜんたいの体積をへらす方法も思いついた。


 妖精たちがつかう縮小の魔法は、妖精の羽のうごきが必要だと言われている。

 もしその魔法を術式化して杖にくみこめれば、敵と戦うときに効果を発揮するだろう。


 小山のような戦象をまえにしても、杖をふれば子犬のおおきさ。

 あるいは気に入らない相手につかって、豆粒にしたあと、ドブにでもなげれば溺死させられる。

 効果がきれてもとに戻っても、転んで死んだと解釈されるだろう。


 縮小ポーションは実用性がある。しかし実用化されていないのは、倫理的な禁忌に触れるからかもしれない。

 テーブルに頬杖をついて休憩しながら、幼いころ、実家のちかくで見かけた妖精のすがたを思い出していた。



 ふたなりペニス縮小ポーションの安定化がおわった。

 青と緑の液体がグラデーションをえがいて、瓶のなかで対流している。効果時間は4時間。生成されるペニスは子供くらいのおおきさになるはずだ。


 テラノヴァはうきうきとして休みをまった。

 これでリードで実験できる。実験をぬきにしても、セックスはおたがいがさらに仲良くなれて楽しい。


(でも今度はほどほどでやめないと、嫌われるかも……)


 全力で性欲をぶつけると、リードは天国から戻ってこなくなる。忘我の時間がふえると、怖がられる。

 無茶しないためには、べつのあいてで発散してから行けば、安全である。



 リードと遊びに行く日、朝の8時から12時までレーニを呼びだして、4時間のあいだで3回精液をそそいだ。

 この事前準備により、欲望あふれるふたなり状態でも制御が可能になるはず。

 ベッドのうえで股をひろげてぐったりしているレーニのそばにカネを置いて、テラノヴァは出かけた。

 配信をつけていたので、月の人から辛辣な評価がきた。


『堂々と2股するな』

『レーニちゃんとやった目的がひどすぎて笑った』


「リードさんとおちついてセックスするためには、必要な行為でした」


『うんうん。それは必要!』

『コラテラルダメージだ』

『畜生だよな』


 リードを誘いにゆくと、ふたたび玄関で抱きつかれた。


「えへへへ」


 リードはそでなしのシャツに獣皮のハーフパンツという、シーフのようなうごきやすい服装をしている。

 父親に挨拶して出かける。なんの心配もせずに送りだしてくれたが、いまから娘を抱きますと言えば、きっと拒絶されただろう。

 農地のあぜ道を通って、平野にむかう。


「今日は近場でミニロック鳥のたまごを探しましょう」

「うん!」


 1時間ほど雑談しながら平野を歩いた。

 途中で手をつないだり、背中に背負ったまま移動したり、傍目はためには仲の良い姉妹に見えただろう。


 平野にぽつんと生えている巨木があった。


 単眼鏡をリードにわたす。


「見てください。あの木のうえです」

「どこー? ……あっ、いた!」

 

 枝がわかれる幹の中心部分に、直径3メートルほどの巣があった。

 枝で編まれた巣から、青色のたまごの先端がいくつも見える。

 親鳥もそこに座っていた。遠くから空にむけて羽をひろげ、ときどきけたたましい鳴声をあげていた。


「おっきな鳥がいるよ」

「あれがミニロック鳥です。肉食で、ときどき家畜をさらってしまいます。ただ、畑を荒らす害獣もたべるので、いい面もあれば悪い面もあります」

「ふーん。倒すの? 勝てるかな?」

「たまごだけもらいましょう。生かしておけばまた取れます」

「でもすごくおっきな声でないてるよ。突っつかれたらいたそう。やっぱり倒すの!?」

「倒しません」


 ふたりで木のそばにいった。親鳥が気づいて空中に飛んだ。


「リードさん、目をつむってそこの石を、私に投げてください」

「うん。えいっ」


 紅蓮隕石の破壊杖でうちかえす。赤い魔力をまとった石は、親鳥にぶつかって翼の一部をこそぎとった。

 空中できりもみして墜落するかにみえたが、立てなおして巣にもどる。


「もう目を開けていい? すごい音がしたけど、なんだったの?」

「鳥を撃退しました。ではいきましょう」

「うん」


 はしごを幹にかける。巣にあがると、吠えたける親鳥は、鋭いくちばしを開いて威嚇し、爪をテラノヴァに向けた。


「クェェエ!」

「うるさいです」


 睡眠ポーションを振りまくと、親鳥は眠った。しばらく待って効果が消えたあと、リードをよんだ。


「わぁ、広い巣。家畜のにおいがする」

「たまご以外も探してみましょう」


 目についたたまごをかばんにつめた。鶏卵よりも一回りおおきい。ミニロック鳥のたまごは、鶏卵とほぼおなじ利用ができる。イドリーブ市で人気なのは、調味料としての使いかただった。黄身だけをとりだして調味液に漬けこみ、塩で脱水すると硬いかたまりになる。それを削って粉にすると、凝縮された黄身の風味がする調味料になった。


「ねえ、首輪があった」


 リードが黒い首輪を持ってきた。銀色のネームプレートがついており、ちいさなサファイアで装飾されていた。


「どこかのお金持ちのペットがさらわれて、食べられたのでしょう」

「かわいそう……」

「首輪はきれいにひかるので、巣のかざりになったのだと思います。飼いぬしは捜索依頼を出しているかもしれませんが……」

「どうしたの?」

「ペットの安否を気にかけている依頼主がもしいたら、ミニロック鳥に食べられてしまった結果を、伝えるべきなのかと思いました」

「あっ……死んじゃったら悲しいもんね」

「ええ」


 生きているか死んでいるかわからない状態なら、まだ希望がある。それを奪ってしまう結果は、いいことなのかわからなかった。

 あるいは安否がさだかではない状態が、一番の精神的な苦痛であれば──たとえ死の報告でも、まえに進むために必要なのかもしれない。

 

「もし依頼があれば、お金をもらえるかもしれません。シレンさんに頼んで、ギルドに持って行ってもらうといいです」

「わたしひとりで行っちゃだめ?」


「はい。冒険者のなかには、反社会的で、粗暴なひとたちもいます。そんな人たちに見つかれば、リードさんが冒険者ギルドに入った瞬間、部屋のすみに追いつめられて、殴られて、持ちものを全部奪われてしまいます」

「こわい……やっぱりお父さんに頼んでみる」


 首輪をかばんにしまった。

 めぼしい品物はほかになかったので、たまごを半分ほど奪ってはしごをおりた。


「たくさん取っちゃった。ねえ、あの鳥が目をさましたとき、たまごが減ってるって気づいたら、どう思うかな?」

「魔物を気にかけるなんて、リードさんは優しいです。でも、心配無用です」

「……でも、いっぱい取っちゃったよ?」


「ミニロック鳥はあまりあたまがよくありませんから、正確に数えられません。半分くらい残しておけば、何も気づかないでしょう」

「そっか……」

「人間でも計算ができないひとがいます。この鳥の場合は、生きるうえでそこまでの知能が不要です」

「どうして? いろいろできたほうが便利だよ」


「計算能力が必要な鳥は、鳥人のすがたになっています。鳥人は社会性のある生活を送っていますから、あたまの良さがいります。ですがミニロック鳥は狩りをして、ひなを育てるだけですから、使わない能力はまったく不要です」

「そうなんだ……テラノヴァって何でも知ってるね」

「そうでもないです」

「えらい先生みたい」

「ふふふ」


 お姉さんぶってみたが、思ったよりも気分がよかった。その調子でリードのあたまをなでまわしていると、言葉がすくなくなり、手を離そうとするとつかまれて、せがまれた。


「もっとなでて」


 いくら感情の機微きびにうといテラノヴァでも、リードの気持ちは理解できた。あきらかに発情の予兆がある。フェロモンがふくまれたあまい体臭をかぐと、テラノヴァの男性的な脳が興奮する。


(リードさんが可愛く見えます。午前中に発散しておいてよかったです)


 判断を狂わせるほど興奮してしまったら、危険な屋外でリードの手を木につかせ、即断で襲っていたかもしれなかった。


 イドリーブ市にちかい場所までくると、テントで安全地帯をつくる。

 なかに入ったとたんに、リードは服をぬぎすてた。

 


(そういえば、配信を忘れてた……)


 精液魔力でゆっくりと、絶頂感のなかにいるリードをさすりつつ、かばんをあけて配信球に魔力をこめた。


(こんにちは。えーっと、リードさんと……遊んでいるところです)


 自動アングル変更モードにしてしばらくリードと前後運動していると、コメントがきた。


『最初からクライマックスじゃん』

『朝から続いて2回目か』

『ほんとにやったんだな。リードちゃんの股に血がついてる。かわいい』


 あっという間に視聴者がふえた。魔導模造生命マギ・シュミラクラのいう人気コンテンツのため、登録者に通知が飛んだのだろう。


『お尻も触って喜ばせてやれ。肛門も性感帯だぞ』


 指示コメントが視界のはしに映った。嫌がられるかもしれないが、いまの密着具合なら許されるかもしれない。もっと気持ちよくなってくれるなら、もっともっと、うれしい。


 リードは3時間をこえたあたりから、こわくなって拒否していたのだが、拒絶は肯定だと思いこんでいたテラノヴァは、ポーションの効果がきれるまでやりつづけた。

 4時間後、体力を使いはたしたふたりの全身から、力が抜けた。


「あ……」


 テントのなかでうごけなくなった。

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