心は言葉でささくれる

宵埜白猫

心は言葉でささくれる

 ざわざわと、不快な感じがした。


「それはこっちのフォルダに格納して下さい。……ここに書いてありますよね」


 資料を指差しながら、面倒くさそうに先輩が言う。

 この人はいつも一言多いのだ。

 仕事の中でいちいち言葉遣いなんて気にしていられないのも分かる。

 忙しい時にそんなものを意識して時間が過ぎるのはもどかしいだろう。

 私の確認不足があったことも認める。

 だからと言って、あのぶっきらぼうな言い方はどうかと思う。

 トゲトゲしい気持ちを抱えたまま、私は作業を続ける。

 もうこの部署に来て一年。

 先輩のああいう所にも慣れたものだ。

 気にせず、自分の仕事をすればいい。

 キーボードを叩く。

 今日の出勤者四人の内、二人がお昼休憩に入っているせいかその音がやけにうるさく聞こえた。

 わざとらしいキーボードの音二つを聞きながら、心のささくれは広がっていく。

 酷く不快だった。


「すいません。ちょっといいですか」


 叫び出したいほど不快な気持ちが溜まってきた時、先輩に声を掛けられた。

 何も感じていないと思っていたけど、案外そうでも無いのかもしれない。


「はい」


 短く伝えると、彼は資料をいくつか私のデスクに並べた。

 先週私が担当した案件だ。

 この会社では全員が休みを取りやすいように、業務を共有している。

 次は彼の番らしい。


「ここって前回どんな話になりましたか」


 一瞬、謝られると思っていた私が馬鹿だった。

 彼は別に悪いことをしたと思っていないし、実際悪いことはしていない。

 それでも許せいないものはある。


「それ全部引き継ぎに書いてありますよね」


 意趣返しと言わんばかりに、そう伝える。

 資料の最後のページに、私が作成した引き継ぎを見つけて、先輩ははっとした。

 それと同時にスッキリしない表情だ。

 嫌な言い方を返して相手が不快になったところで、イーブンにはならない。

 私がもっと不快になるだけだ。


「嫌な言い方してすいません」


 それでも、これが嫌だったってことは伝わってくれたら嬉しい。

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心は言葉でささくれる 宵埜白猫 @shironeko98

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