第4話


「もう、大変なんですからね。どこにオーバーラインがあるかわからないんですから」


 どや顔の雪花に、小海がため息交じりに言った。


「それなりに出力しない限りダイジョブじゃ。そんな事より、急ぐぞ」

「はい、どんどん再生していってます」


 小海は目を凝らして、妖魔を望む。


 雪花は小海をおんぶし、妖魔の元に急いだ。


「しかしどうやって殺すっ、おーい碧殿も聞いとるか?」


 走りながら尋ねる。


「ああ、もぐもぐ……聞いてるよ。厄介だな、強化再生能力なんて強力なものがあるとは」

「あと碧殿、女の子がいたぞ。おっさんとおばさんだけじゃなかったぞ」

「ん? おかしいな。乗客名簿にはないが……密入国か……まっそんなことよりだ、強力な特能には何か代償があっても良いはずだ、小海、何――」

「――ああっ! もしかして、ゴボゴポゴボッ!」


 小海が叫び、ディープブルーの目になって妖魔を望みだす。


「何じゃ急に?」


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    田中翔


 神歴1791年、初夏の生まれ  5才  男  半人半妖


 生命力  : 750(1010)

 魔力   :  22( 112)

 知能   :  40(  40)

 攻撃力  : 402( 402)

 防御力  :3010( 503)

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「やっぱり! 魔力が減ってる、ゴボゴポッ!」

「何じゃ急に、てっまさか」

「ゴボゴポ……妖魔の特能は魔力消費で起動してると思われます」

「もぐもぐ、珍しい。代償が必要な能力だったか、お前と同じで不便だな」

「というと、つまり倒せるんじゃなっ」


――ギギッ、ギッギギッギッ。


 ん?


 雪花が左脚の違和感に一瞬気を取られる。

 

「再生が追い付かないように紅葉で燃やし続けてみたらどうだ」

「……いや、それは……大丈夫かの?」


 雪花の顔が渋る。


「だから甘やかすな、ちゃんと戦えるようにしないと。もぐもぐ……、奴は強化再生能力で皮膚が固くなっただけだ。炎ならば肺が焼け、死ぬだろう」

「……うーむ、どうじゃろ」

「そんなこと言って、もぐもぐ……、ではどうする? その銃を使うか? いやだぞお前のおままごとに付き合わされるのは、もぐもぐ……」

「……なぁ、さっきからあんたなんか食っておらぬか?」

「ああ夜食をね。腹が減っては戦えんのよ。お前と同じだ、私には栄養が代償なのだ、もぐもぐ……」

「碧殿、不謹慎じゃ。そんなんだから嫁の貰い手がな――」

「――皆、いい加減にしてください。妖魔は目の前ですよ!」


 言われて、疾走していた雪花が急ブレーキをかける。


 妖魔の元へ雪花達が到着した。


 焼かれた脇腹が元通りになって倒れている妖魔の姿を望みながら、雪花は小海を降ろし、荷電粒子砲を構える。


「雪花、紅葉ちゃんで燃やして見ましょう」


 小海がピチピチ跳ね、森の中へと避難していきながら言った。


「……やはりそれしかないか?」

「雪花、手加減できていません、防御力が3000を超えております。どうするんですか!」


 森の木の陰に隠れながら、小海が怒鳴る。


 その時、


「キエェェェェェァァァッ」


 妖魔が雄叫びをあげ立ち上がった。


 振り返り、すぐ近くにいる雪花を睨みつける。


 その全身を覆う鋼の体毛が無くなっていた。


 その代わりに、重装歩兵のように全身を分厚い鋼の塊が全身を覆っている。


「キエェェェェェァァァッ!」


 妖魔が奇声を上げ、威嚇をした。


 やはり威嚇だけか……ホントは臆病な人だったんじゃろうな。


 ……シュウザーめ……。


 雪花は沈む気持ちを正すために、


「やるぞぉっ!」


 叫んで自分に気合を入れた。


「残り魔力22です!」


 小海が叫ぶ。


「それが再生の限度という事じゃな!」

「前見た時よりも、かなり魔力を消費してますので、あと1回で十分とおもわれます!」

「キエェェェェェァァァッ!」


 妖魔が奇声を上げ、威嚇をした。


 両方の鎌を振り上げ、威嚇を繰り返す。


 威嚇しかしてこない今のうちじゃっ。


 雪花が、ぱぱぱっと、刀の形にした手を上下左右に動かし、印を切る。


「来い、紅葉」


 首に下げている7色の数珠のうち、赤い玉が光った。


 光は数珠から離れ、雪花の印を切った右手の先に止まる。


 その光が人の形を作っていった。


 雪花の指先の光の中から、いつもくせ毛のあるミディアムヘアー、続いて夕焼け色の目が現れ、赤いレオタードみたいな服、最後に背中の蝶々の羽が現出する。


 徳永紅葉が、眠そうな顔して現れた。


「何よ雪花、今忙し――ってきゃあああっ!」


 紅葉はすぐ目の前の妖魔に驚いて、逃げて行く。


「ちょっ、おまっ、紅葉、戻ってこい、逃げるんじゃなーい!」


 雪花が逃げる紅葉を追って妖魔に背を向けた。


「キャァァァエェェェェェァァァ!」

「ん――」


 雪花は殺気に体が固まる。


 背中を見せたその隙を逃さず、妖魔が鎌を振り上げ雪花に襲い掛かった。


 空気を切り裂き、右手の大鎌が薙ぎ払われる。


「おわぁっ!」


 雪花が慌てて避けた。


――ギッギギッ。


 ん?


 雪花は、自分の体が一瞬ぎこちなく動けなかったことに、胸騒ぎがした。


 しかしそれよりも、雪花は紅葉を戻さねばと、


「紅葉ぃ! 待たんか!」


 そのまま妖魔に背を向け、逃げる後を追っていった。


「キャェェェェェァァァッ!」


 その後を妖魔も、好機とばかり鎌を振り上げ追いかける。


 雪花がパタパタ飛んでる紅葉に追いつきジャンプした。


「逃げるなぁ!」


 パタパタ飛んでいる紅葉の足をひっ掴み、そのまま地面に叩きつけた。


「ふんぎゃーっ」


 地面に大の字になって、紅葉が羽をピクピクさせる。


「戦うんじゃ、早よ起きんかい!」

「そんなーっ、わっちは戦いは苦手って言ってるじゃなーいっ」

「燃やすだけ――」

「――キヤェェァァァァァ、キヤェェァァァァ!」


 追いついた妖魔が、狂ったように大鎌を振り回した。


「キャァッ! キェェッ! キャァッ! キェッ! キャァッ! キェェッ!」


 雪花の体を真っ二つにする、旋風のような斬撃が奇声と共に何度も繰り出される。


「紅葉っ! わらわがっ! 今からっ! 奴を動けっ! ないよっ! するからっ!」


 斬撃の連続を、雪花がギリギリのところで身をかわしつつ、紅葉に叫んだ。


 しながら、荷電粒子砲の狙いを定める。


「だからちゃんとやるんじゃぞー!」

「いやーっ!」


 紅葉が羽を激しく羽ばたき逃げていった。


「おのれーっ!」


 雪花が左腕側面のスイッチを押し、発射する。


――パキュゥゥゥン。


 撃った瞬間、雪花が背を向けた。


 雪花達の背後で、小指大の光弾が光の尾を伸ばし妖魔の額に命中する。


 途端、光弾が破裂し眩い閃光が起こった。


「キァェェェェェェェェエ!」


 妖魔が目を押さえ蹲る。


 雪花が妖魔から距離を取った。


 と即座に、ぱぱぱっと、刀の形にした手を上下左右に動かし、印を切る。


「美柑ちゃーん!」


 首に下げている7色の数珠のうち、橙色の玉が光った。


 光は数珠から離れ、雪花の印を切った右手の先に止まる。


 その光が人の形を作っていった。


「キヤェェァァァァ!」


 妖魔の奇声が響かせる。


 そして鎌を振り上げ、雪花に突撃を再開した。


 その目にサングラスのような黒い膜ができている。


 もう治りおった……。


 式神を召喚している最中、その右腕は光が消えるまで動かせない。


 逃げ回って時間を稼がなくてはっ。


 妖魔の右鎌が薙ぎ払われる。


 雪花は飛び退ろうと、左脚に力を込めた。


 しかし、


――ギギッ。


「なんじゃ!?」


 左脚に力が入らな――


――ガキンッ。


「ぐぅっ!?」


 薙ぎ払った右鎌が、雪花の胴体に直撃する。


 特殊合成繊維で織った人工皮膚は切断され、チタン製の肋骨に当たり鈍い音を立てた。


――プシュゥゥゥッ。


 白い血が雪花の体から飛び散る。


「雪花!」


 その光景を見ていた小海が叫び、慌てて森から飛び出した。

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