第5話 トラウマとアニメ化
「
「はあ?」
編集者が電話口でとんちんかんなことを言う。お茶を飲む。
「え、だって、うちの子って、犬か猫でも貰ってきたのでは?」
「あのねえ、
息を呑む気配。察して、電話から顔を背ける。なお、耳がキーンとした。
*
その後、東京、文学賞の授賞パーティー。
その日、
「北のほうの子供って、本当に『
編集者はよく解らない感動の仕方をしていたものだっけ。
*
小さい子がいるので、やたらと絵本の献本、絵本のキャラクターグッズをいただくようになった。いい加減いらないと抗議したら、絵本が児童書に変わっただけだった。
「美古都、小学校大丈夫かな」
少しして、石矢君が言った。しばらく送り迎えは自分がするつもりだけど。そういうことではないと、石矢君が首を振る。
「生まれてこの方、常に父親か母親がそばにいたんだよ。きっと小学校でも坂木君がずっと一緒だと思って…」
ああ…。う~ん…。
*
「そりゃあ、トラウマになりますよ! 小一だもん、未来永劫覚えてるよ! そりゃあ、のぞみちゃんと住みたいとか言い始めますよ!」
京都の坂木家。エリちゃんが力説している。
「あれって、そういうことだったのか…」
小学校に馴染めなくて、上級生の
横を見ると、
「私、そんな坂木君が大変な時に…。男の人は、
良い笑顔。
「で、そんな来たるべき小学校入学という絶望に対抗するための、『ミレイちゃん』アニメ化だよ」
「めちゃくちゃいいお話!」
きゃぴきゃぴする女子二人。
「子供の頃、日曜日の朝からやってましたよね。そうか、坂木君のためだったんですね」
「そうだよ。他の子供なんかどうだっていい。あれは、美古都の笑顔を守りたい一心からだったんだ」
そうでなければ、あんなものをわざわざアニメにはしない。スガシカオ氏だって、己のデビュー作を恥じているのだ。
アニメが始まると、存外、子供らからの受けは良かった。
うっかり子供と一緒になってアニメを観てしまった親からも密かに好評。子供へのプレゼントと偽り、『ミレイちゃん』の漫画や原作小説の文庫本が売れに売れた。
子供たちが、成長してから文学作品のパロディーだったと気付く仕掛けである。
そして今、エリちゃんと悪原嬢が、『ミレイちゃん』のDVDを観ていたのである。美古都ではないが、暴力をふるいたくなった。大人なので、我慢する。
もちろん、帰宅した美古都に悪原嬢は蹴られたのだった。そして、やはり、嬉しそうだった。うん。
結果、エリちゃんは悪原嬢からの依頼を受けたのだった。
美古都のささくれ 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho
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