第33話 どうする?

「じゃあ、その人に言われて旅をしているんだね? 目的地はどこだい?」


「目的地はない。ただ、村には戻るなって言われてるから……」


 その言葉を聞いて、父親の顔が険しくなるのをスーは見た。鼓動が悪く高鳴る。


「君は……村から追放されたのかい?」


「うん」


「何故」


「……」


「言ってごらん。悪いようにはしないから」


「……」


「ね、アモス君?」


 賢明なのか愚かなのか、アモスは完全に口を閉ざしてしまった。そこからはエドのいかなる質問にも反応せず、ただ首を垂れるばかりである。


「どうします、あなた?」


 途方にくれた様子でゾーイがエドに言う。エドは腕組みをしながら唸ると、天井を見上げて言った。


「仕方がない。しばらくは家で預かって、礼拝へ行った時に相談しよう」


「礼拝……そうですね。司祭様なら、何か良い知恵をいただけるかもしれません」


「この子が訳アリなのは間違いない。こんな年端のいかない子供がひとりだけで追放刑になるのは、どう考えても不自然だ……そうだろう?」


「ええ、本当に。一体、何があったのかしら?」


 父と母の話し合う姿と、一切口を開かない少年とを、スーは交互に見比べた。


 確かにこの子は何か隠しているし、罪の意識を持っているようにも見える。しかし、大人と同等の裁きを受けるのは、本来なら14歳以上になってからだ。


「ねえ、アモス……念のために訊くんだけど、あんた年齢は?」


 スーが尋ねると、彼は今年で11になると答えた。やはり、見た目通りの歳だ。


 それでは、何故親が一緒にいないのか? どんな理由があって、こうなってしまったのだろうか? スーはいくつか可能性を考えたが、ろくなものが思いつかなかったため、すぐにそれをやめた。


(まさかね……)


 とりあえず、しばらくはひとつ屋根の下で過ごせるのだ。聞き出せるタイミングはいくらでもあるだろう。スーはそう考えを改め、これからの生活に思いを馳せていた。




 柘榴ざくろの月、28日。

 年が明けて最初に巡ってくるこの月も、残り3日となっていた。


 アモスがスーのところに来てからというもの、スーはこの少年をあちらこちらに連れ回した。家の中しかり、畜舎しかり、放牧地しかり……放牧地に至っては、使われなくなって久しい2区から4区までも案内した。


 そしてそれ以外の時間も、スーはほぼすべての時間をアモスと過ごした。さすがに寝床は別々にされたが、それ以外で離れ離れに過ごすことはほとんど無かった。彼女が作業をするときはこの少年を常に近くに居させ、場合によっては手伝わせたりもした。


 アモスは文句ひとつ言わず指示通りに仕事をこなす。はじめは唯々可哀そうという気持ちだったが、彼の真面目さを知って以降、スーはアモスをどんどん気に入っていった。


 彼女のアモスに対する気の使い方は、まるで弟と接する姉のようにこまやかだ。彼女からすれば、兄が家を去ってから久しく味わっていなかった、歳の近い者と一緒に過ごす時間である。楽しくないハズがなかった。

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