第32話 取り調べは食後に

 嫌な沈黙が場を支配したが、から元気ぎみにエドがそれを破った。


「……よし! まあ、いいや! とにかく食べよう! 今の君に必要なのは、祈る方法や神の存在の是非を語ることではないからな!」


「そうね。まずはちゃんとご飯を食べなくちゃ。お腹すいたでしょう?」


「……うん……」


 ようやくアモスは答えた。聞き逃しそうな細い声だった。

 緩慢な仕草でパンを小さくちぎり、口に運ぶ。


「よく噛んでね」


 スーの言葉には無反応だったが、言っていることは理解できたのか、丹念に咀嚼を続ける。


 そして、最初の一口を飲み込んだ。


「うん。それくらいのペースで食べた方がいいな。さ、肉も食べなさい。口には合わないかも知らんが、栄養はちゃんと摂った方が良いからね」


「分かった」


 エドの言葉には反応したアモス。スーは思わずゾーイの顔を見たが、彼女は何も言わず微笑みを返すだけだった。


(……ま、いいんだけどさ……)


 いまひとつ釈然としないまま、スーもヤギの肉を頬張る。

 飽きるほど食べた味だ。今さらおいしいなどとは思わなかった。




 アモスの話を訊くのは、朝食を終えた直後となった。


「それで……いったい何故、君はあんなところで倒れていたんだい?」


 奥では、ゾーイが食器を洗っている音が聞こえる。いつもならスーも手伝うところだったが、今日はこちらが優先事項だ。


「うん……」


 案の定、アモスの口は重い。一応最初に頷きはしたのだが、その後になかなか言葉が出てこない。

 何かきっかけになれば、という思いからか、エドは次々と少年に話しかける。


「見たところ、年齢も10歳前後か。とてもひとりで長旅をするような年齢には見えないし、色々と事情があるんだろう?」


「……」


「君はまだ子供だ。だから、基本的に我々は君を歓迎したい。が……あんまり黙ってばかりいられると、そうも言ってられなくなるぞ」


「ちょっと、お父さん」


「スーは黙ってなさい。ここは大事なところなんだ」


「えー……」


「アモス君、だったね。君、ご両親はどこにいるんだい?」


「……家にいると思う。多分……」


「親から言われて、こんなところまで来たのかい?」


「ううん……ほかの人に言われて……」


 少しずつ、少年は口を動かしだす。


「ほかの人。それは、誰?」


「都会から来た偉い人。どういう人かは、忘れちゃった」


「君か、君の家族の知り合いなのかい?」


「……そういうんじゃないんだけど……」


 革新に迫ろうとすると言葉を濁す。ゾーイが洗い物を終わらせて食卓に戻ってくるのをお構いなしに、エドは続けた。

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