第7頁 好奇

 この日もご多分に漏れず、少年は物言わぬままザッカリーを横切る。細く小さい体は、こんな時には無駄に便利に見えた。ザッカリーからすればたまったものではない。


「待て」


 言葉少なに制止するザッカリー。勿論子供は、それを聞かない。するすると奥に進むと、ナマズの干物が入った箱を開け、しげしげと見つめだした。


「だから勝手に開けるな、小僧。死にたいのか」


 乱雑に置いてはいるが、中には致死性の高い毒物も交ざっている。ザッカリーの言葉は脅しではなく警告だった。

 子供は魔道士の方を振り返ったが、反省の色は見られない。


「これ、何に使うの?」


 初対面の時と比べると聞き取りやすくなっていたが、それでもその声は小さかった。感情がまったく反映されない顔を気味悪く眺めながら、ザッカリーは律儀に答える。


「……ああ。そいつは、酸で溶かして赤土に撒くのさ。そうすると、霊が寄ってくる特殊な土が出来上がるんだぜ」


「霊を呼んで、どうするの?」


「色々と物を尋ねたり、お願い事をしたりするのさ」


「フーン」


「おい、何度も言わせるな。その辺のモノを触るんじゃない」


「じゃあ、これは?」


「……」


「ねえ、これなあに?」


 なんだコイツ。今日はやけに声をかけてくる。

 少し気になったが、会話が成立している間は答えていこうとザッカリーは考えた。話の流れ次第では、この子が何者か分かるかもしれない。


「それはわにの皮だ。腐ったネズミをこれで包んで、書きかけの魔方陣の中に放り込んでおくと、イナゴをたくさん呼ぶことが出来るんだよ」


「呼んでどうするの?」


「穀物を食い荒らしてもらうのさ。農村なんかは大打撃、だな。嫌いなヤツの畑だけを特定して狙うことも出来るぜ」


「フーン。じゃあこのビンは?」


「コラ開けるな開けるな。中身が傷むだろうが……まったく、本当に今日はしゃべりやがるな。何かあったのか?」


「……」


「こっちからの質問はだんまりかよ……まあ、いいや。そいつは新月の夜に呪句を詠唱しながら抜いたカブの塩漬けさ。どうしても体力がほしい時にそのカブを食べると、元気が出るんだ」


「今、食べていい?」


「バカ。お前みたいな子供が口にしたら、腹壊すぞ」


「なんで?」


「大人にはよくても、子供には毒なんだよ。酒や煙草と一緒さ」


 実際は、人の中にある清い心を燃焼してエネルギーに変えるという代物である。食べれば食べるほど良心がズタズタに壊れ、邪心まみれの人間になっていくという物であったが、それをそのまま言っても伝わらないと考えたザッカリーは適当にあしらった。


 その後も少年はザッカリーを質問攻めにした。今まで気になっていたことを一度に尋ねているのかもしれない。が、それにしてもずいぶんな好奇心だ。

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