第3頁 疎ましい頼み
「こっちは依頼料を払っておるのだ。よろしく頼むよ」
「押し付けられたからもらったまでだ。俺は依頼に対し、首を縦に振っていない」
ザッカリーは村長から金を得ていたにもかかわらず、申し出をずっと無視している。だが幸いにも狼が姿を現すことはなく、歳月は平和裏に過ぎていた。
「金だけもらって仕事をしないようなお前でもあるまい。信用しているからな」
「分かったような口を聞くな。魔道士に向かって『信用』なんて言葉を使うなぞ、あんた頭は大丈夫か?」
「そう言うな。もう付き合いも長いではないか」
「だから、あんたが勝手に来ているだけだろうに。俺はうんざりしているんだよ」
ザッカリーが何を言っても、村長はそんな彼を変に持ち上げるような発言しかしない。そして、ちゃっかり依頼が成立した体で勝手に話を打ち切って帰っていく。それが、この来客が取る態度の常であった。
村長は椅子から立ち上がると、それでは今月もよろしく、と極めて自分勝手に言い放った。不満を隠す気にもならないザッカリーだったが、私物を崩されてはかなわない。彼は渋々道を譲る。
「毎度毎度すまんな。これでも、村の安全に責任を持つ身なのだよ」
「俺などに頼らず、自警団でも結成したらどうなんだ?」
「人手が足りないと前にも言ったろう。それに、こんなところに魔道士がいたんじゃあ、誰もディムエッジまで行きたがらないのも実情だ。分かるだろう?」
「じゃあ、いつでも引っ越すぞ」
「そんなこと言いながら、ずっとここに住んでくれておるではないか。儂がお前を信用しているのは、そういうところだよ」
家の外まで出たところで、村長は固い顔に笑みを浮かべた。
「それじゃ、邪魔したな。もし金が気に障るというのなら、次は何かうまいものでも持って来よう」
「何もいらん。俺は何もいらんから……」
村長はザッカリーの言葉をさえぎるように、彼の肩へ軽く手を置いた。そして、小声でまた来るとだけ言って踵を返す。
そこからは、もう言葉のやり取りは無かった。言いたいことを一通り伝えた村長と、聞いてほしいことを聞き届けられなかった魔道士の間が、少しずつ離れていく。
一帯は開けていたので、村長がふもとへ降りていく様はしばらく目で追えた。ザッカリーは一歩も動かぬまま、やがて彼の姿が小さな森に消えていくまで、ただじっと見つめ続けた。
その口が、動く。
「……今日の生贄、お前の村からさらっても良いのだぞ……」
もちろん、そんなことが本当に出来るなら、とっくにやっているだろう。独白は村長まで伝わるはずもなく、そよ風が通りすがりに聞いたのみであった。
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