第1章 俺がみんなと話すってことは、俺が君の運命を知る、そういうことなんだよ。

1. 俺と成田さん

「なぁおい!ちょっと待てよ!」


 学校の中庭から校舎へ戻ろうとすると、誰かを追いかける男子生徒にぶつかった。ちゃんと前見ろよ。


「あ、ぶつかってごめん!」


 謝った彼の数字は…。


【0:0】


 は…?

 0年、0日?


 この数字は、小学三年生の始業式、あの日以来だ。

 臆病な俺は、彼を追いかける足が動かなかった。今、目の前であの人が死ぬかもしれないのに。


「ねぇ、あの人、何日だった?」


 立ち尽くしていた俺の前に、人影が現れた。クラスメートで、隣の席の成田さんだった。


「…はっ?」

「余命」

「え?」


 なんで成田さんは、俺が余命が見えることを知っているんだ?

 とりあえず言われたから答えてみる。


「0日だっ…」


 たよ、までは言わせてもらえなかった。


 だって、成田さんは次の瞬間、走り出していたから。


 俺の視界の先で、手を合わせながら成田さんは彼に近づいている。

 俺も無意識に足が動いていた。


「星川築、16歳は、命の短き運命となっております。どうか、秋咲様…力をお貸しください。星川築には、大切な妹さん、両親、たくさんの友達がいます。だから…この人に、生きる力を、分けてください」


 生きる力を…分ける?何を言っているんだ?

 彼が桃色の光に包み込まれ、その光が無くなった時には、何もなかったかのように彼は歩き始めていた。


「七海くん、協力してくれてありがとう! おかげで星川くん、助かったよ」

「…本当?」

「私、今の力を使って、周りの人を助けることにしたの。だから、七海くんがいてくれて助かったよ! ありがと!」


 成田さんと話したのは、必要事項以外初めてだ。結構明るい人なんだな、そう思った。


「ねぇ、七海くん」

「ん?」

「これからも、人を助けるの、手伝ってくれないかな?」

「はっ?」


 まさかそんなのに俺が任命されるとは思わなかった。


「……ごめん、何日か考えさせて」

「もちろん!考えてくれてありがとう。またあとでね!」


 もう余命を見るなんて懲り懲りだ。なんのためにこの学校に入学してきたんだよ。成田さんの勧誘に飲まれちゃダメだ。

 まだ、今は…そう、思っていた。

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