【KAC20244】くちぐせ
青月クロエ
第1話
それは遠い遠い、異国のおはなし。
西の果てにあるその国には、たいへん欲しがりやさんの王子さまがいました。
王子さまはちょっとでもいいなぁ、欲しいなぁと思うと、たとえ誰かの物であってもおかまいなし。相手がくびをタテに振るまでねだり、強引に奪ってしまいます。
「ささ、くれまいか」と。
おへやをそうじしていた召使のほうきに興味を持ち、「ささ、くれまいか」
こっそり忍びこんだ厨房で焼きたてお菓子をみつけて、「ささ、くれまいか」
うまやでネズミ退治のために飼われているこねこがかわいくて、「ささ、くれまいか」
王子さまを危険からまもってくれる騎士の剣が欲しくて、「ささ、くれまいか」
欲しがりやさんの王子さまにおしろのみんなは困っていました。
けれども、断ったりしかったりして、王子さまのごきげんをそこねたりしたら。へたをすれば、国から追いだされてしまうかもしれません。どうしたものか、と、みんなで頭を抱えていました。が──
ある日のこと。
王子さまはおとうと王子といっしょに、王さまとお妃さまからプレゼントをもらいました。剣の形をした紙を切るナイフで、柄の部分にきれいな宝玉が埋め込まれています。ちなみに、王子さまは深い海の色の宝玉、おとうと王子は若葉の色の宝玉と色が違っていました。
宝玉の色はそれぞれが好きな色をもとにしたのですが、王子さまはおとうと王子の宝玉の方が素敵に見えてしまい、ついいつもの調子で「ささ、くれまいか」と口にしてしまいます。
そんな王子さまに王さまとお妃さまは目をまるくしたあと、しかりつけました。「人の物をむやみに欲しがるんじゃありません!はしたない!それに、人からもらうばかりで何も与えない者など嫌われる一方です!」と。
ふたりがあんまりにもきびしくしかりつけるものですから、王子さまはびっくりしたのと、王さまとお妃さまがこわかったので、しょぼんとしてしまいました。
王子さまのいまだかつてない落ちこむ姿をかわいそうに思ったのでしょうか。
肩を落とす王子さまのそでをおとうと王子が、そうっと、ひっぱります。
「おにいさま!ぼくの分がなくなるからあげるのはイヤだけど、交換だったらいいよ!」
にこにこ笑顔で紙切りナイフを差し出すおとうと王子に、王子さまは二度びっくりしました。
「え、でも……、本当に、いいの?」
「うん!おとうさまとおかあさまもいいよね?」
確認するように振り返るおとうと王子と、ごきげんをうかがうような王子さま。
王さまとお妃さまは少しの間、どうしたものかとかんがえていましたが、やがて、「おまえたちの好きなようにしなさい」と交換をみとめてくれました。
おとうと王子と紙切りナイフを交換したあと、王子さまはナイフをじぃっと見つめつづけていました。
その後、王子さまは誰に対しても、「ささ、くれまいか」と欲しがることは二度としませんでした。
【KAC20244】くちぐせ 青月クロエ @seigetsu_chloe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます