第5話 あと何歩くらいかな?

「じゃあ何でお前、俺が声を掛けた時に反応しないんだよ!」

「だって、いざとなったら恥ずかしくて……」

「………質問を変えよう。他のやつらには、何で反応しない?」

「え、全然知らない人とは話したくないもん」

「そのカテゴリに何故俺が入っていない……!」


 何だこいつ、意味が分からない! まるでラノベとかアニメに出てくるポンコツ女子じゃないか!

 

「で、話しかけてくれないと思ったらさ? クラス替えで一緒のクラスになれてすっごく喜んでたらさ? 私には声を掛けてくれないくせに他の人とは楽しそうにお話してて、睨みたくもなっちゃうじゃん!」

「面識がないんですけど?! ……ぷはっ!」

「あ、笑った! 何だよう!」


 こいつ。

 めちゃめちゃおもしろい。


「いや。斎賀おもしろいなあって思ったらごめん、笑ってた」

「あー! 何か馬鹿にしたあ!」


 振り上げた斎賀の手を思わずつかんだ。

 軽いじゃれ合いのようになってしまった。


 うわ。

 どうしよう。


「もう! もう……!」

「馬鹿にしてない、ごめん。ごめんってば」


 斎賀の口が『へ』の字になった。

 

 ヤバい。

 調子に乗りすぎたか……!


「……こんな風にずっとずっとお話したかったの。嬉しい! もー、我慢してたのにニヤけちゃう!」


 我慢顔、だったのかよ!


 でも。


 屋上に来てから初めて真正面から見た斎賀の顔は、少し涙目で。

 照れくさそうな顔いっぱいに笑顔を浮かべてて。


 不覚にも、ドキドキした。

 めいっぱい。

 直撃だ。


 こいつ、笑うとこんなに可愛いんだ。



 俺らは、友達になった。


「ねえねえ! 私、佐久間の友達でしょ?」

「ああ、そうだな」

「えへへ! いっぱいお話したい事、聞きたい事があったんだ!」

「そうなのか?」


 こんなに喜んでもらえるとは思ってなかったが、こちらまで嬉しくなってしまう。今までの事があったから尚更だ。


「ふふっ。佐久間の彼女まで、あと何歩くらいかな?」

「…………ん?」


 今、ボソッと。

 何かとんでもない言葉が聞こえたんだが?!


 あ、いや……聞き間違いだよな。

 勘違い野郎になりたくないしな。


「あっ! ……今の、聞こえた?」

「ご、ごめん、聞いてなかった」

「ホントに?!」

「本当だよ! それにちょっと! 近い! 近いってば!」


 制服の袖をつかんで、俺を見上げてくる斎賀。


 アヒルぐちに真っ赤な顔、不満そうな表情。


 斎賀とたくさん話をしたくなった。

 今朝までの憂鬱が嘘みたいな、不思議な時間。


「ふはっ」

「あー! また笑ったあ!」


 楽しい毎日が、始まるのかもしれない。

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【KAC20244】ささくれのような。 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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