第4話 ピンクのモアイ

「私、あの時豊丘さんのそばにいたの。一緒にリレーの順番待ちしてて」

「そ、そうなんだ……」


 知らなかった。

 斎賀があの時、近くにいたなんて。


「……豊丘さんが胸を押さえて倒れて、涙をいっぱい流して苦しそうにしてたのに……みんなと一緒に慌てちゃってどうすることもできなかった。でもその時、佐久間が走ってきて、さ」

「過呼吸の対処の仕方、知ってただけだよ」


 姉さんが過呼吸を起こしてた時期があったから、対処法を医者に聞いて必死で覚えた。それが役に立ったんだ。


「ジャージの上着をパパって脱いで、クッションにして、低い声でゆっくりと豊丘さんに話しかけてたよね。『大丈夫だよ、大丈夫。苦しいかもだけど、まずは息を吐く方を意識して……』とか何とかって」

「……知っていれば誰でも同じことができたよ」


 何か変な流れになってきた。


 あれ?

 周りにいた生徒、いなくなってないか?


 考えすぎだったのか……。

 斎賀、一人で来てくれたんだ。


「すっごくカッコよかった」

「え?」

「佐久間のファン、すっごく多いの知ってる?」

「……からかうなよ」

「ホントだもん!」


 何だこの羞恥プレイ。

 自分にできることをしただけだってば。


 けど、少し安心した。斎賀に嫌われてる訳じゃなかったっぽい。


 ん?

 でも。


 そうなると……斎賀が俺を冷たい目で見てた説明がつかなくないか?


「ずっと気になってたこと、聞いていいか?」

「うん」

「斎賀、同クラになってから俺のこと睨んでない? 嫌われてるとばっかり思ってたから今日の話で少し安心したけど、何で?」

「当たり前だよ」


 ……当たり前?

 何故に?


「去年からお話したくってずっと見てたのに、気付いてくれないんだもん」

「……はい?」


 どういうことでしょうか。


「気づいてくれないから、佐久間がよく遊んでるオンラインのゲーム買って、ずっと近くにいたのに! ろくに話しかけてくれないなんてひどくない?!」


 あ。


 いつもの冷たい目になった。でも顔を真っ赤にして唇を尖らせてるから、何かどっかのアニメのキャラみたいで逆に……て、あれ? 


 オンラインゲーム?

 ずっと近くにいた。


 まさか。


「もしかして、『ルーン・メモリー』のこと? メンバーを集めて、パーティで冒険するやつ……だったり?」

「たぶん、それ」

「え、キャラ名は? 種族は?」

「名前は『なで』、『モアイ族』? でピンク色のおっきいの」

「おい、おいおいおい!」


 あれ、お前だったのか!


 ある日突然現れたピンク色のモアイ。

 イベントやバトルには一切参加しない。

 チャットで話しかけても反応がない。

 

 だが。


 とあるプレイヤーの近くに、気がつけばいる。


 まるで、背後霊のように。

 お前を呪う、と言わんばかりに。


 そして、いつしか。

 噂は広がっていった。












THE・クマ佐久間には、近づくな。さもなくば……ピンクの呪いに、まみれるであろう、と。











 おかげさまで、うちのギルドもパーティーも慢性のメンバー不足になってたんだぞ! 怖いってえ!

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