第3話 ねえ、佐久間。


 自分で決めたくせに、屋上に上がる階段が、まるで処刑台へと続いているように思える。


 来てくれるかな、斎賀。

 

 豊丘には申し訳ないことを頼んでしまったが、『おっけ、任せて!』と快く引き受けてくれた。本当にありがたい。


 斎賀が怖がらないように、一人じゃなくてもいいと伝えてくれとは言っておいたけれど……めちゃめちゃいっぱい連れてきてボッコボコにされたらどうしよう。


 っわ。


 ……ま、考えても仕方がない。

 

 今できる事を、やる。

 集中しろ。

 

 階段を登りきった。

 深呼吸をする。


 扉。


 さあ、行くぞ?

 背筋を伸ばせ。



 吹き抜けていく風の中で、周りを見渡した。男女同じくらいの割合で、十人ほどいる。


(これ全部、斎賀の連れか?)


 もしそうだとしたらどんだけ警戒されてるんだよ、とは思いつつも今更引き返せない。冷や汗が、止まらない。


(どこにいるんだ……あ)


 いた。


 夕焼け色に染まる屋上の、入り口から離れたところに斎賀がいた。


 長く黒い髪をツインテールにし、風に靡かせ、金網に背中を預けている。ちらりちらりと俺を見ては、何事もなかったように視線を戻す周りの生徒達の間を進んでいく。


「斎賀、ごめんな呼び出して」

「………」


 唇を歪ませ、うつむいて目線を合わせずに。無言で、くるり、と俺に背中を向ける斎賀。


 うーん……話を聞くのは難しいか?


 斎賀が向き直って、俺を見た。

 まだ、目線を合わせてくれない。


 けれど。

 

「ねえ、佐久間」

「……はい」


 キョロキョロと彷徨う視線に、不思議と冷たさを感じない。口を少し開きかけては閉じる、を繰り返す斎賀の言葉を待つ。


 よっぽど言いづらいことか?


「去年の、体育祭……覚えてる?」

「あ、え? う、うん」

「……豊丘さんが倒れた時のこと、だよ?」

「え?」


 過呼吸であいつが倒れた時の話?

 

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