不登校児の親と先生の言葉 の巻②
◆◆保健室での先生の言葉◆◆
小学校には、三つの校門があった。色んな方角の子どもたちを受け入れるために、校舎脇の門扉も開かれていた。
我が家が使うのは西門だった。西門をくぐると、保健室の前を通り、職員室の前を通り、昇降口に辿り着く。
その日は、西門の外で、我が子たちが立ち往生してしまった。たこは、高く空を見上げて一歩も動かなくなった。ぴこは、「行きたくない!怖い」と半泣きの状態で、西門の柵にしがみ付いた。ちぃは、ランドセルを放り投げて、うずくまって泣いている。
両親の腕力をもってしても、1年生、3年生、6年生を担いで昇降口へ運ぶのは無理だった。時間に余裕もない。
母は、保健室の扉を外から叩いた。「先生!すみません。いつもの行き渋りなんですけど。。手伝っていただけませんか?」
保健室の先生は「あらあらあら。」といった様子で、笑顔で出てきてくれた。
3対3だ。行けるかもしれない。大人同士目配せして、母が、パニック寸前のぴこを引き取る。夫は、冷静にたこと話し出した。保健室の先生には、幼さ故にチョロそうな、ちぃをお願いした。
説得しても、脅しても、子どもの話を聞こうとしても、あの手この手を尽くしたが、子どもたちは校門をくぐらない。母ももう、駅まで走ったところで最終リミットの電車にはとうてい乗れなかった。力が緩む。今日も会社遅刻だ。
親の力が緩むと、子どもたちも緩んだ。保健室の先生の提案を受けて、「とりあえず保健室の中に入ってみる」ことに納得したようだ。子ども3人と、遅刻確定の母が、外扉から保健室に入れてもらう。夫には出勤してもらった。
子どもたちは、保健室の中でも緊張し、直立不動であったが、保健室の先生が、母を椅子に案内してくれた。母が座ると、子どもたちは緊張が少しほぐれ、保健室にあるぬいぐるみを手に取りだした。
「いつも、こんなで。ホントにお忙しい中、お手数をおかけしてしまって。申し訳ありません。」母は保健室の先生に頭を下げた。
「大変ですね。」と保健室の先生は、うなだれた母と、ぬいぐるみで遊びだした子どもたちを見ていった。
そして、保健室の先生が明るく言った。
「お母さん、大丈夫よ。今、学校来れない子いっぱいいるのよ。フリースクールだって、沢山出来てるでしょ?学校に来れなくても、立派に大人になってる人、大勢いるのよ。」
母は、鉛のように落ちていた重たい心が、その心の鉛がサーっとみるみるうちに冷えていくのを感じた。冷たくて重い感情が、心を支配する。
(なんて言った?キレイゴト言ってんじゃねぇ。どこにそんな場所がある?子どもが電車で自分で通えると思うのか?どこにそんなお金がある?3人分の月謝を知っていて言ってるのか?お昼をどうするか、分かっているのか?)
冷たくて重たい感情は、頭で先生の言葉をリフレインする間に、大きな怒りに変わっていた。
母は、「学校しか、ないんです。」とやっとの思いで伝えた。
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