ささくれ
木曜日御前
ささくれを剥く
指にささくれが出来た。
乾燥には気をつけていたのに。ハンドクリームだって、ネイルオイルだってこまめにつけていたのに。無情にも私の皮は小さく剥けた。
少しだけささくれの先端を捲った。
途端にむき出しの肉が風に触れ、ちりっと痛む。
じわじわと根元から赤い血が滲んだ。
ああ、ほっとけばいいものの。
私は終ぞささくれの先端を掴むと、ぐいっと力任せに剥けかけた皮を剥いだ。傷口は合わせて大きくなり、遂に溢れた血が玉となる。
そして、重力に負けて、爪の脇からどろりと指を伝い落ちる。
赤く染まった白い紙のメモ帳は、私の愚行を受け止めた。赤く染まり、広がり、黒ずむ。
いつかは茶色い汚れとなるだろう。
ああ、思えば。
私の友人に「ささくれは剥く」主義の女がいた。
ハーフのような顔立ちで、色素の薄い髪色と目が特徴的な人だった。
どこか浮世離れした雰囲気のある彼女は、ささくれが出来る度に剥き、滴る血を白いノートに垂らしていた。
「わからないけど、落ち着くから」
ささくれから、小さな傷口へ。そう話しながら、彼女は小さな傷口へ、シャーペンの先端を突き刺した。
忽ち、黒く固まりかけていた傷口は、鮮やかな赤を取り戻していく。さっきよりも、多く流れる血は全て彼女のノートへと留められていく。
その血痕は何ページにも渡り、留められていた。
ある時、先生は彼女に対して、「汚いからやめなさい」と怒った。けれど、彼女はやめることなく、ささくれを剥き続けた。
友達の私はと言うと、ささくれを剥くことはあるが、滴る血は全て適当な紙で拭い捨てていた。傷口を弄ることもない。
なにせ、とても痛いからだ。
だから、友達がささくれを剥き、シャーペンを突き刺す姿を見るたびに、何故そんなことをと心の中で思っていた。
彼女と最後会ってから、もう十二年。
今はもう、連絡先もSNSすら知らない。
何故、彼女はささくれを剥き続けたのか。
私にはもう知る術もない。
その事実に、ちりっと心が痛んだ。
ささくれ 木曜日御前 @narehatedeath888
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