#2 泣きたいのはこっち
「あなた、時間に干渉できる能力者でしょ?」
まず金髪クソ女が口火を切った。
第一印象は「マンガかよ」だった。
自分の能力を言い当てられるという異常過ぎる状況がちょっと非現実的過ぎて受け入れ難い。
ようは現実逃避ってやつだ。
「否定は時間の無駄。わかってるの。この辺りの宇宙の歪みの中心があんただから」
クソチビ女の方が輪をかけて無礼。
ただここまで突拍子もないと、怒りよりもポカーンの方が先にきた。
「聞いてるの? とっとと答えなさいよ」
しかも金髪の方はアメリカのアニメみたいに人差し指を立ててメトロノームみたいに振りながら詰め寄ってくる。
加えて胸元はボタン外し気味で胸の大きさを見せつけてますーって感じ。
俺、知ってる。
ここで俺が胸をちらりとでも見たら「はいアウト」とか言って、近くで隠れて撮影している怖いお兄さんとかが出てきて酷い目に遭わせられるんだろ?
逃げるなとは言われたけれど、何かあったら全力で逃げてやる。
あそこに転がっている鉄パイプとか、いざとなった武器にでもして。
「ねぇちょっと。人の目を見て話しなさいよ!」
イラっとくる。
「お前絶対に俺のこと線路に落とそうとしたよな。思わず避けたくなるくらい背後からすげー殺意を飛ばしてきてたし、痴漢だって冤罪だし、殺人衝動バリバリの犯罪者の目なんか怖くて見れねぇっつーの。だいたいなんだよ能力者って。マンガかよ。お前らは目を合わせることで発動する能力者ってわけですか」
怒りにまかせてブチまけた。ただし大前提として、俺は能力なんて知りませんよって
「宇宙を滅ぼそうとしているのに被害者ヅラ?」
クソチビ女の方がまたぶっ込んできた。
宇宙ときたか。
滅ぼすときたか。
話が全く見えない。
「言いがかりも甚だしいってこのことだよな。なに宇宙って。宇宙からの電波でも拾ってんのかよ」
俺が女子二人相手にここまで食い下がれるのは、ガキの頃のあることをきっかけに強くなりたいと思ったから。
当時、不登校だった期間、俺はラップバトルの動画を見まくった。
独りで口喧嘩の脳内練習を繰り返したりもした。
イタイ奴なのは自覚している。
でもそのイタさが俺をここまで鍛え上げた。
「やっぱりこいつ殺そうよ」
クソチビ女がスタンガンを取り出す。
マジかよ。
「ほ、ほら、物騒なのはそっちじゃねぇか! 今殺すって言っただろ! この殺人鬼! 人殺し! ど悪党!」
全力で叫びながら俺はあの鉄パイプへと走ってつかむ。
すぐに振り返って構えたが、二人はさっきの位置から動いていない。
「……わかってるよ……でも、私だって殺りたくて殺ってんじゃないよ、こんなこと!」
うわ、本当に人殺しなんだこいつら。
美少女二人が殺し屋ってそれどこのマンガだよ。
「シャル、あいつ逃げちゃうよ」
シャルってのは金髪の方の名前か?
「……なんで……どうして……」
「ど、どうしてって、俺の方が聞きたいよ! いきなり殺されそうになって、また今も殺されそうになって。自分たちに置き換えてみろよ。フツー、身を守るだろ?」
「殺さなきゃ殺されるとこだったんだから!」
そう言った途端、シャルと呼ばれた金髪の方が泣き出してしまった。
え? ここで泣き落とし?
泣きたいのはこっちだし、泣かれたところで俺の命をハイそーですかなんて差し出せないよ?
それでもこんなに泣かれると、こっちが悪いみたいになるの、なんかズルいよな。
しかもしゃがみ込んでいるせいでパンツ見えちゃってるし。
これやっぱりドッキリじゃないの?
「私も何度も殺されかけた」
クソチビ女の方は相変わらず俺を睨んでいる。
なんだよ。俺の何がそんなに悪いんだよ。
俺は今までの人生で、人を殺そうとした記憶は一度たりとてない。
口喧嘩だってエアばっかりで、今日の今日まで実際に人に向けて放ったことはなかったし。
それどころかこの能力で人助けだってやってきた。
ああ、気分悪いな。
あの二人を見ていると、こっちが悪党な気分にさせられる。
「……あのさ、事情を話してくれよ。悪いけど俺には本当にわからないんだ。そっちの都合で、そっちだけ知っている何かを理由に、何も知らない俺を殺すとかってフェアじゃないだろ?」
鉄パイプを構えるのだけはやめてみる。
俺の能力についてどこまでバレているのかはわからないが、向こうもそれなりに警戒してるっぽい。
ということは、だ。
交渉を優位に進められる可能性はまだあるかもしれない。
もちろん泣いているのは演技かもしれないし、こうしている間にこいつらの仲間に包囲されている恐れもあるのだけど。
「まともに話をしたのは初めてだけど、あなたはちゃんと会話ができる人なのね」
どういうこと?
会話をしないで殺そうとしたくせに、なんて言い草だよ?
「いきなり殺されたら会話にならないだろうよ」
「そうね。でも、何度も殺されそうになっているのは事実」
「俺に?」
「そう」
「本当に俺に?」
「厳密にはそうとも言い切れないけど、そう」
「どういうことだよ……」
ふと思いついたことがあった。
「もしかして、未来の俺が悪の帝王みたいになっちゃうから、そうなる前に未来から現代へ俺を殺しにきたとか?」
半分くらいは冗談だった。
でもクソチビ女の方が初めて睨んでくるのをやめた。
「あながち間違ってない。そこまでの想像力はあるんだ」
クソチビ女はくっそ生意気。
つーか何してんだよ、未来の俺。
「で? お前らも時間を遡れる能力者ってわけ?」
「違う。あなたは交渉できる相手だと信じるから、フェアに明かすけれど、私の能力は<次元渡航>。平行宇宙へ渡ることができるの」
と言ったあと、金髪はクッソチビ女をチラ見する。
クッソチビ女は再び不機嫌な表情になってから。
「私の能力は<宇宙観察者>。宇宙の歪みを見ることができる」
こっちの方はよくわからない。やっぱり電波の人なんかな?
だがフェアにと言った以上は俺も言うべきだろう。
「俺の能力は<リバース・ダイブ>。時間を遡ることができる」
もちろん細かいルールまでは言わないでおく。
「信じらんない! なんで日本人なのに能力名が日本語じゃないの? ダッサッ!」
「私知ってる。そういうの中二病って言うんだよね」
見るからに日本人じゃない金髪の方、お前の能力も漢字だけど? とは思ったが話がこじれそうなので黙っておく。
「……交渉すんじゃなかったのかよ。お前ら本当に悪口好きだな」
こういうときはあえて冷静な語り口の方がツワモノ感が出る。
二人は溜息をつき、ようやく語り始めた。自己紹介と、俺が宇宙を滅ぼす理由とやらとを。
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