67 いざ、馬車で

「本当に任せっきりにしちゃってもいいんですか?」

「ああ。ま、そう言ってもこのフクロウさんに何かあったら伝令してもらうさ」

「僕もこっちに残るわけだしね〜」


 結局あの後、農園に置いて行く人数を加味してチッチョが抜け、そこにアーミアがハマることとなった。そもそものチッチョの役割である守護の観点は、ラプタとムトの二人でなんとかなると判断してのことだった。

 つまり、翔、ラプタ、アーミア、ムトの四人が王国に行き、カルラとチッチョが残ることとなったのだ。

 カルラとチッチョだけで農園を任せられるのかとアーミアは心配していたが、ムトの複製体が農園の方に常駐し、ムトがそこと常に同期を続けるという形で連絡網になってくれることで問題は解決した。


「で、自分が呼ばれたってわけなんやね?」

「本当に良いんですか? タダで運んでいただけるなんて……」

「ええんよええんよ。この前のドラゴンの卵運び、想定しとった何倍もええことがこっちで起こっとるから、これくらいは無料でやらせてーな」


 キーウィh、ルルートが報酬として渡してきたモノが純金の装飾品数点だったことを語った。そして、金の高騰がこの世界でも起こっていたことに起因して、利益が相当に出たらしい。

 それを物語るように馬車の質が上がり、バロップの鞍も質の良いものに変わっていた。

 四人は馬車に乗り込むと、街道を馬車はゆっくりと進み始めた。

 その瞬間、パッとアーミアの姿が獣人のそれに切り替わる。


「うおっ……!」

「あ、忘れてた」


 翔が驚いた声を上げるが、アーミアは何も気にした様子ではない。


「あぁ、そうか。翔には説明してなかったな。アーミアはあの農園の中でしか人間化の魔法が使えないんだ。元々魔力を相当に消費する魔法だからな。農園の結界でブーストさせてやっとなんだよ。それに、お前と同じように人間の姿だったら王国の方で怪しまれるからな」

「ま、それもそうか。そういえば俺はどうするんだ?」

「お前は王国が近づいてきてから獣人化の魔法をかけてやる。期待して待ってろ」


 そんなことを話している間にも、馬車はゆっくりと農園から離れていく。

 翔が乗った荷車とは違い、人を乗せるためのそれは内装もしっかりとしたものだ。


「結構揺れますね……」

「でも、ドラゴンの卵運んだ時と比べるとだいぶ良くなってるよ。座るところもあるし、クッション性もあるし」

「そら人運ぶ用のモンをわざわざ準備したさかいにねぇ!」


 御者をしながらキーウィが大きな声で返事をした。


「この前の儲けをそのまんまこういう新規開拓に繋げよかなおもとるんですわ。なんか変なとこあったらすぐ言うてくださいねぇ!」

「ははは! タダだって言うからどんなことをされんのかと思ったが、俺らはテストに使われてるってことか。あの狐の奴も強かだな!」


 大股を開きながらラプタが豪快に笑う。そんなラプタが居てもなお馬車の中は狭く感じない程に広く、揺れていても不快感はあまりない。

 その旨をラプタが伝えると、キーウィは満足そうに親指を立てた手を翔たちの方に見せてきた。


「そういえば、アーミアは王国の方に行った経験とかあるの?」

「ん〜、覚えてない頃に連れて行ってもらったことはあるらしいんですけど、記憶の中では一回もないんですよね。いつもキーウィさんか、あるいは他の方からモノを買うばっかりで。私一人でやってたんで、しばらく農園を開けることもできなくて」

「本当に王国の方に用事がある時は、今日みたいに私が飛んで行ってたんだよ」

「にしても、翔さんのそれは何を……?」


 アーミアが不思議そうに翔の方を見る。翔は窓の外に向かって、カメラをずっと構えていた。


「ん、まあ配信だけだとみんな満足しないかなって思ってさ、動画も撮っておいたら見てくれそうじゃん?」

「農園の方で配信も続けてましたよね? じゃあそのカメラは……」

「私物。って言っても古いから動画を撮るくらいしかできないんだけどね」


 赤いランプが揺れとともに上下に残像を残し、アーミアがそれを目で追いかける。その光景だけを見ていた翔は、こういうところは猫に近いんだなぁと思っていた。

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