60 配信再開!
「じゃあ繋げるよ。ムト、魔法は……?」
「完璧だ。そんな心配をされる方が腹が立つほどにな」
キーウィの手伝いをした数日後、翔達はカメラの近くに集まっていた。そんな翔たちの集合になんだなんだと気にしてはいたものの、動物達はカメラの前でのんびりと過ごしていた。
その日は珍しく普段は居ないような大きな動物も二、三匹過ごしており、その上にマルハスが乗って眠っている。他にもまだ何も入っていない餌場の中でクオッカのような鼻の大きな可愛らしい動物が眠っていたりと様々だ。
「じゃあ……いくよ」
翔は配信開始のボタンにカーソルを合わせる。すでに数時間前に告知は行なっており、配信開始前から配信待機画面には何千という人数が騒がしくコメントを残している様子が見てとれた。
「それにしても、すごい人数が見てるんだね〜。数字では理解できるけど、僕には全く規模感がわかんな〜いって感じ」
「あはは、俺も全然わかってない。けど、一個わかることはある」
広告料。翔がこの配信を始めたきっかけだ。
一度休んだ上でこの人数が残ったコンテンツは、つまりは継続的な視聴者の多いコンテンツに他ならない。だからこそここで安定して収入を得られるという確信が、うっすらとではあるが翔の中にあった。
それ以外にも様々なことは行うつもりだったが、第一段階が安定して成功していると言う事実に、翔は安堵を覚えていた。
クリック音が響くと、パソコンの画面に配信画面が映し出される。その向こうでは、確かにいま撮影されている映像が流れていた。
user:うおおおおおおお!!!
user:100万年待ってた
user:復活えら
「うっわ、気持ち悪いねぇこうやって見ると。これ全部人間が送ってるんだろう?」
事前に翔が教えていたことを半信半疑にしか聞いていなかったカルラが、実際に目の前の画面に流れていくコメントを見て驚いた表情を浮かべていた。
「姉さん。あんまりそういうことを言うもんじゃないですぜ」
「でも、アンタもおんなじ感情は抱いてんだろう? ラプタ」
「ん、まあそう……っちゃあそうっすけど」
恥ずかしそうに頬を掻きながらラプタは斜め上を向いた。
「じゃあ、このパソコンとタブレットは俺が基本的に触るからそれ以外で何かあったら言ってくれ。雨風を凌げるようにチッチョに頼んでこの屋根とカーテンも作ってもらったことだし、これは今日以降下げ続けたままにしておくこと。マルハス達が興味本位で入ってしまわないようにって意図もあるから、入る時も慎重にね」
「餌やりは僕でも雑魚お兄ちゃんでも、誰でもやってもいいんだよね〜?」
「ああ、ムトの魔法でそうやっても構わないようになってるはず。だけど、食べられないものとかも混ざってるかもしれないから、餌場に餌を補充する前にアーミアに確認して欲しいかな」
「いっぱい食べちゃうと太っちゃう子とかもいるので、そこだけはお願いします」
翔が注意喚起をし、アーミアが頭を下げると、各々が首を縦に振った。
「じゃあ、私は農園のお仕事に戻りますね。カケルさん、今日くらいはお休みでも大丈夫ですよ」
「え、いや俺結構休ませてもらってるし、今日くらいはちゃんと農園に貢献しようかなって思ってたんだけど……」
「あはは、それなら手伝って欲しいことは色々あるんですけど、ラプタさんもチッチョちゃんもカルラさんも、すごく真剣に手伝ってくれるおかげで実は割と何もすることがなかったり……」
「ま、そういうこった。いいじゃねぇか。休みがあるなら遠慮なく休め」
ラプタはそう言うと翔の背中を軽く叩く。
「ん〜、そう言ってもらえるならまあ休んでもいいかな……。じゃあ、アーミア、何かあったらまたムト経由ででも教えて。俺は……もしかしたらどっかに出かけてるかもしれないから」
「わかりました!」
屋根から天幕のようにカーテンを下ろすと、パソコンとタブレットが置かれたテントが出来上がった。
各々が散るように農園へ作業を行うように戻っていく中で、その場に残ったのはムトと翔だけだった。
「ちょっといいか」
「ん、なに?」
「裁判の件だ」
ムトの姿がフクロウのそれから一瞬にして人間に変わる。そしてその服装も、カジュアルなものではなくフォーマルなスーツ姿だった。
「しばらくはまだ継続するだろうが、とりあえず報告しておかねばと思ってな」
「何? なんかトラブルでもあった?」
「いや、そういうわけではない。単刀直入に言えば、横山が警察に捕まった。財産の方はすでに娘と嫁に渡した上で離婚まで行なっているらしくてな。賠償の方面はなんとかなるかどうかわからない状況だそうだ」
ムトがそう言うと、スーツのポケットに入ったスマホを翔に見せてきた。しばらく農園の方にかかりっきりであり、ニュースサイトなんて覗くこともしなかった翔はそこに書かれていた文言に一瞬で目を丸くする。
「暴行!?」
「ああ、それ以外にも余罪がいくつかあるらしい。ここを襲った三人にも聞いてみたが、どうやら間違いないそうだ」
「ふぅん……まあ、社長ならやりかねないか。でも、逮捕されたならこれ以上トラブルもないし、安心できるかな」
「それがそうとも限らないんだな」
ムトがスマホを持ち帰る。そこには画面には圏外と書かれていた。
「どうやらあの三人の言っていたことと横山の言っていることが食い違っているらしい。ほら、ここをみてみろ」
ムトが見せてきた画面には、横山は一人で万引きを行い、路地の裏でカツアゲを行ったと証言したと書かれていた。
「だが、あの三人は明確に横山がそういうことを行ったことをみている。日付も時刻も間違いない」
「でもさ、満場一致のパラドックスってのもあるわけだし、記憶違いも起こるんじゃないの? それに……社長のことだから考えにくいけど、庇ってるとかもあるかもしれないわけだし」
「そうだと良いんだが、あの三人がかけられていた魔法といい、ちょっと気になるところがある。休みのところ悪いが付き合ってもらうぞ」
「え、でもお前今日はアーミアと俺との橋渡し的なことをしてもらいたくて……」
「心配するな。能力は低いが、分身をこちらに置いている。アーミアが話しかければ、私にその言葉が届くように設計済みだ」
「ふぅん、便利なことで。で、どこに行くんだよ」
「まずは私の事務所だな。その後に……お前、会社の住所は知ってるか?」
「……一応知ってるけど、行くのか?」
当然のこと、と言わんばかりのムトの表情とは裏腹に、まだメンタルが回復しきっていない翔の胃が少しだけキリキリと動き始めていた。
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