51 無頼のはずの再会が

「すごかった……」

「えぇ〜? 何? 雑魚お兄ちゃん、そんなに僕の体に見惚れてたのぉ? ヘンタ〜イ!」

「チッチョじゃないって」

「……嫌な予感がするが、俺の話じゃないだろうな」


 カラ、カラと下駄でコンクリートを叩きながらラプタが呟く。人間の姿になった彼らの髪は、まだ少ししっとりと濡れていた。

 異世界でも基本的に素足で過ごしていた彼に、翔が持っていた履き物を貸したのだ。スニーカー、革靴、下駄の中でどれがいいかと翔が聞くと、ラプタは興味を示したように下駄を選んだ。


「いや、どっちでもない。まさか家の近くにあんな銭湯があったなんて、って思ってね。ここに住んで数年は経つけど、この辺りを散策したことってなかったからさ」

「へぇ、面白いね雑魚お兄ちゃん。住んでるところのことも知らないなんてね〜」

「俺らには考えられんことだな。住処を決めるために、まず周囲の安全を確認する、それが普通だと思ってたからよ」

「あはは、そんなに危険がいっぱいの世界じゃないからね。こっちは」


 コンクリートジャングルとまで形容された日本の中で、住んでいる地域のことを詳しく知らなくても生きていける。それは確かに異世界の生物にとっては驚くべきことなのかもしれない。

 そんな幸せを、翔は再確認しながら家路へと歩いていた。


「あれ、水無月じゃん。また会ったな」

「あ、大津さん! どうしたんですか二日連続で」

「いやいや、嫁と一緒にそこの銭湯に行こうって話になってな。お前もその様子だと行ってきたんだろ? ……そっちの二人は?」


 大津の目が光る。


「あ、あはは……」


 翔は愛想笑いをしながら思考を回転させていく。この人、相変わらず鋭いなぁ、などと考えながら、見た目は人間になっても完全に女児にしか見えないチッチョと、こちらはこちらで一緒に歩いていれば確実に警察からマークされるであろう人相の悪いがたいの大きな人間。しかもチッチョは茶髪に赤い目、ラプタは白髪に黒いメッシュでサングラスをかけており、明らかに日本人ではない。

 ちなみにサングラスは翔の部屋に置いてあったものをラプタが気に入ってかけている。

 そんな不揃いの二人が翔と一緒にいるのだから、大津も気になって仕方がないと言った様子だ。


「知り合い、かな」

「へぇ、お前、忙しいのによくこんな外人と知り合えたなぁ。ボク、名前はなんて言うんだい?」


 きらり、と大津の目が光る。翔はチッチョに余計なことを話すなと視線を送るが、チッチョは気が付いていないようだ。


「雑魚お兄ちゃん、誰? この人?」

「あはは! お前雑魚お兄ちゃんなんて呼ばれてんのかよ! アニメの見過ぎだろ!」

「こら、チッチョ。お前外でくらいは隠せよ」


 初対面の相手に警戒したようにラプタの背後に隠れながら言うチッチョに対して、大津は腹を抱えて笑っている。そんなチッチョのことをラプタは叱りつつ、大津の前に出そうとした。


「いやいや、気にしなくていいさ。外人の子供だろ? アニメ観てでも日本語覚えてる方がすげぇさ。しかし……ツレが一緒にいるなら風呂上がりに一杯飲みに行こう! なんて誘いは無理だわな」

「ん〜、そうですね。すみません大津さん」

「いや、気にすんな。また時間ができたら連絡してくれ」


 大津はそう言うと、手を振って去っていった。


「にしても、いつの間に……」


 そう呟く大津の声は、夜であるにもかかわらず翔たちには届かないほど小さな声だった。

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