48 確信犯

 そろそろ日が落ちるといった頃合いに、翔達はやっと餌場を完成させることができた。重労働かと思われた作業も、チッチョの強化魔法でほとんどの作業を楽に終えることができた。


「あとは目地材が乾いたらオーケーだね。雑魚お兄ちゃんもよく働きました!」

「あ、そうか。乾く時間ももちろん必要か」

「魔法で乾かしちゃっても良いんだけどね。カルラお姉ちゃんかあのクソ鳥ならできるし。でも僕はこっちの方が好きだからね〜」


 側においていたシャツで額の汗をチッチョは拭う。もうなりふり構わないと言った様子で、いつの間にか二人とも上半身裸になっていた。それほどまでに日差しが暑かった。


「でぇ……雑魚お兄ちゃんにお願いなんだけど……」

「冷たっ!? な、何?」


 新しくなった餌場の形と向きから、大体どの辺りにカメラを置こうかと考えていた翔の背中をチッチョが突く。

 爪が当たらないようにと配慮してチッチョが肉球で突いたはずのそれは、汗で冷えてしまったがために翔には驚きしか与えなかった。


「えぇ〜、雑魚お兄ちゃんこんなことでびっくりしちゃうの? よっわ〜!」

「……お願いとやらがあるんじゃなかったのか? 聞かんぞそんなこと言ってたら」

「あ、ごめんごめん! つい、ね。で、お願いなんだけど……」


 チッチョはおもむろに翔の手を取ると、自らの腹部に添えさせた。汗ばんでいる中でも体毛によって暖かくなったその体の熱が、翔の手を温める。


「撫でてほしい……かな」


 上目遣いでそう望むチッチョに対して、翔は二つの意識があった。

 男であろうと関係なく、この可愛い動物を撫で回したいという本能的な欲求、そしてもう一つが、これを餌にすればチッチョのこの難儀な性格もある程度は治せるのではないかという直感的な考え。

 ただ、翔に迷いはない。なぜならばもうすでにその手はチッチョの体に触れているから。暖かく、そして汗をかいているにもかかわらず柔らかいままの毛。それを目の前にして自分を律することすらできないまま、翔はその腹に添えた手を少し動かす。

 びく、とチッチョの肩が揺れるが、まだウィークポイントそのままをとらえたわけではない。

 翔はゆっくりと手を動かすと、そのままチッチョがさらに反応するところを……


「何やってんだお前」

「あ……」

「今度は流石に否定はできないな。おし、ちょうど無防備でたるんだ腹も出てることだ。一発くらい我慢できるよな」

「ちょ! 待て待て待て待て! 洒落にならないから!」

「チッ……ラプタのせいでお楽しみタイムが。ねぇ! 過保護すぎるんですけど〜!」


 蹴りの準備のために足を揺らしていたラプタの前に、チッチョが立ち上がる。


「てゆ〜かぁ、ラプタってマジで過保護じゃない? 別に僕がどんなことを誰としようと勝手じゃん」

「お前なぁ……尋問に使ってたような技術だぞ?」


 呆れたようにラプタが頭を掻く。


「え〜、でも気持ちいいよ? ラプタもそうだったじゃん」

「だからダメなんだよ! お前、いいか? 依存性の高いものは必ず身を滅ぼすことになるんだぞ!?」

「あの……俺が撫でるだけでそんなことにはならないと思うんだけど……」

「オメェは黙ってろ!」

「はい……」


 懇々と説教を垂れるラプタと逐一それに文句をつけるチッチョの間で、翔はいつ蹴られるのかとヒヤヒヤしながらその会話を聞いていた。

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