46 チッチョの場合

「カケルって名前わかりにくいから次から雑魚お兄ちゃんって呼ぶね!」

「三文字なんだけどな……」


 困惑しながら呟く翔改め雑魚お兄ちゃんを尻目に、チッチョは軽々と家の裏に積まれていたレンガを整理し出した。

 色と、そして大きさの選別のようだった。


「なんでそんなに細かく分けてんだ?」

「え〜? 雑魚お兄ちゃんそんなことも知らないのぉ? じゃあ、無知なお兄ちゃんのために教えてあげる」


 チッチョは手を止めないまま、翔の方も向かずに作業を続けつつも煽ることはやめない。


「まず、よっぽどお金をかけなかったら購入できるレンガなんて形も色も揃ってない雑っ魚いレンガばっかりだから、積みやすいように大きさを揃えておいた方が良いんだよねぇ」

「なるほど。確かに積みにくかったな。なんというか、どうやってもはみ出たりして、うまく重ならなかった記憶がある」

「でしょ〜? 雑魚お兄ちゃんでもちゃんと学んでるんだね。えら〜い! あ、色に関しては僕の好み。乱雑に重ねるのも味があって良いとは思うんだけど、僕はちゃんとパターンがあった方が好きだからこっちにしてるんだけどね」


 そんなことを言いながらチッチョがレンガを選り分けていく。それを見ながら、翔はなぜ自分が呼ばれたのかを疑問に思っていた。


「なあ、俺がここに居る必要って……」

「えぇ〜? 僕だけで一人黙って静かにやっとけって言うの!?」

「わかっててやってんのかい」

「もちろんじゃん。雑魚お兄ちゃんは雑魚のまま、そこでじっと見てれば良いんだよ。あ、雑魚お兄ちゃん、そこのレンガちょっとだけ向こうに移動させて」

「はいはい」


 チッチョが汗を流しながらレンガを選別している横で、翔はしばらくそれの邪魔にならないようにレンガを移動し続けるだけの作業を繰り返していた。

 しばらくするとレンガも大まかに色と形で分けられ、餌場の周囲には一色の土色であるにもかかわらずカラフルなレンガの山々が並んでいた。


「ふぅ、力を増強させる魔法を使ってるって言っても、やっぱりこういうのは疲れるね」

「そんなもんか。はい、水」


 最後の最後になると、それぞれのレンガの山も大きくなってしまっていたせいか翔が手伝うこともなくなっていたため、翔は一度自宅に戻って水道水を汲んできたのだ。

 どこでもらってきたのかも覚えていないジョッキに並々と注がれた透明な水は、カルキの匂いがしたとしても汗を垂らしている状況では美味しそうに見える。それはチッチョも同じようだった。


「えぇ〜? 雑魚お兄ちゃんも結構気が効くねぇ。じゃ、遠慮なくいただきまーす」


 大きなジョッキを両手で掴むと、リスの獣人特有の長いマズルの端から水をこぼしながらゴクゴクとチッチョは水を飲み干していった。溢れた水を加味したとしても、その一瞬だけでその体のどこに吸い込まれていくんだというほどの水がチッチョの腹の中に消えていった。

 ただ、翔はそれを見ることはできなかった。

 溢れて流れる水が、チッチョの上半身をやたらと濡らしていたからだ。被毛のおかげで人間のそれと比べると少しはセンシティブではないようにも見えるが、しかし水分で全てが体に張り付いてしまっている分そのラインもはっきりと見えてしまう。だからこそ翔はそれを見てはいけないと思ってしまっていた。


「ふぅ、雑魚お兄ちゃんもありがと。……あぁ! もしかして、僕の濡れた服に興奮しちゃった!?」


 そんな視線を逸らす翔に対して、ニヤついた笑みを浮かべながら近寄るチッチョ。それはまるでおもちゃを見つけたいたずらっ子のような笑みだった。


「じゃ、濡れちゃったし脱いじゃおっかなぁ?」

「おいバカやめろ! タグにR-18ってついてないんだぞこの小説!」


 翔が静止するその言葉も虚しく、チッチョは着ていた女児向けのような派手なシャツを捲り上げた。

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