25 情報整理
「ふむ、それは少し厄介だが、まあなんとかなるだろうな」
「なんとかなるって、本当に大丈夫なのか?」
「人間一人の失踪だ。しかも自殺する奴とは到底思えん奴だろう? それならば明日、警察に連絡する。指名手配は無理だろうが、国外に逃げない限りは基本的になんとでもなる。それに、国外に逃げるとは思えないしな」
「ふぅん、その心は?」
翔の問いかけに、ムトはパソコンの電源をつける。
「ここの監視カメラの映像だ。これ、見てみろ」
パソコンの画面には薄暗い部屋の中で四人組が行動している様子がうつっている。
「一度目はお前のところの社長を最初にここに呼んだ日だ。あの後私は農園の方に行って留守だったんだが……」
再生した動画には、翔の働いていた会社の社長の顔が映っていた。
「おいおい、なんでこれ言わなかったんだよ」
「私も気がついたのは餌場を壊された日の夜だったんだよ。アーミアに言ったところで仕方がないだろう? それに、問題はその次だ」
ムトは次の動画に移り、また再生ボタンを押した。その時刻は前の映像から数時間ほど前のものだ。そこには男が狼のような顔をした三人組から逃げている様子が映っていた。女性二人と男性一人……だろうか、と翔は思った。あくまでも体格がそう見えただけで、本当にそうかどうかは定かではなかったのは、ひとえに三人が獣人の姿をしていたからだ。
「この時はお前のところの社長とやらを追いかけるのに必死だったようでな。ウチの備品も壊さずに済んでた様だ」
「で、次がじゃあ……」
「見るか?」
「いや、必要ない。大体のことはわかってる」
「そうか」
ムトはそう言うと、パソコンの電源を落とした。
「何が起こったか、整理した方がいいな」
「そうだな。紙とペンだ」
翔はムトから紙とペンを受け取ると、時系列に沿って何が起こったかを書き記し始めた。
「まずは社長がここの異世界への扉を見つけた。これはまあ偶然だったんだろうな」
「そうかもしれんな。面倒な男だった記憶しかないが。私の話も終始『俺は悪くない』としか言わん男だった」
「はぁ……反省の色はゼロか……。まあいいや、そんでそこに入り、なぜか獣人三人に追いかけられて戻ってくることに」
紙の上にその後もサラサラと時系列に沿って翔とムトは相互に事実を整理していった。
・・・
社長、異世界への扉を見つける→入り、獣人(餌箱を壊した奴)と知り合う→なんらかの形で農園に恨みを抱く(俺の電話の一件と裁判が重なった結果と予測)→実行、四人で餌箱を壊す
・・・
「こんなところかな」
「ふむ、まあおおかた間違いはないだろうな」
「で、これから先にもう一回農園を襲ってくるか、だけど……」
「まあ、襲ってこないわけがないだろうな。お前が配信を再開すれば、向こうも気がついてまた襲ってくる……やもしれん。理論的ではない感情に任せた行動は私も予測がつかんが」
「いや、間違いないよ」
翔も同じことを考えていた。それはムト以上に、横山という男の危険性と、暴力性の高さを思ってのことだった。
「それにしても、ここの異世界への扉が厄介だよなぁ。ずっとここにあるから、社長にも狙われるわけだし」
「ふむ、なら消すか。こっちの世界に罠の魔法を置くのは難しいからな」
そう言うと、ムトは指をパチンと一度鳴らした。その瞬間、ムトの事務所にある異世界への扉は一瞬にして消え去ってしまった。
「そ、そういうこともできるんだ……新しく出せたりはする?」
「ふん。もちろんだ」
ムトが指を振ると、また同じ場所に異世界への扉が現れる。
「とは言え、あんまり何度も行使するような魔法ではない。ただでさえこの魔法は強力なのに、さらに魔力の供給源を断つことになるからな。魔力がなくなった状態で異世界への扉を全て消し去ってしまえば、いくら私といえども元の世界への扉を再度開くことは難しくなる」
「そうか……じゃあ安易に何度もやるわけにはいかないってことね」
「そういうことになるな。ふう、それにしても魔力を使いすぎた。お前、これからどうする?」
「どうするって?」
「あの扉を経由して自宅に帰るのか、あるいは他に行く場所があるのか。魔力が補充できない状態であまりこの魔法を使いたくないからな。私は向こうに行って扉を閉める。そうなれば、お前は自力で帰らないといけないことになるぞ」
「それは……ちょっと勘弁してほしいかな。部屋に財布とか置きっぱなしだし」
「そうか。なら一緒に来い」
翔とムトはそれ以上会話をせず、扉を潜って農園に戻った。翔が異世界への扉を潜り終えると、ムトは扉を閉める魔法を唱える。そこにあった円形の黒いゲートはその瞬間に無くなり、ただの岩山でしか無くなってしまった。
「しばらくはお前の家から通勤させてもらう。が、お前の家も少し危ないだろうな。どこか扉を移し替える準備をしないと」
「危ない?」
「そりゃそうだろう? なんと言ったか……そうだ。横山とかいう奴。そいつがお前の元上司なら、お前の住んでいるアパートくらいは知ってるはずだ。お前がここに来れることを知っているなら、これから先、あいつはお前がどこからこの世界に行くのかを徹底的に調べてくるだろうな」
そんなことを言いながらムトはフクロウに変身する。
「明日、私が警察に連絡するまではこの世界に居た方が良い。お前の部屋のクローゼットを閉じておけば、外から覗き込まれてもお前の部屋に異世界への扉があることはバレないだろうしな」
「わかった。けどどうしようかな」
「何がだ?」
「いや、まあ多少遅れても大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど、せっかく人気が出たんだから冷めないうちにカメラとか調達しておこうかなって思ってたからさ」
「ふむ……それは少し考えておく。こっちの方で準備できれば良いんだが、あいにく私はその方面に詳しくないモノでな。通販で買えるものならば事務所に取り寄せることもできるが、精密機器を運ぶのは少し面倒だ」
「ん〜、そうだよな。俺が出ていくのも……」
「それはやめた方がいい」
「だよなぁ……」
一人と一匹は、何か策はないものかと頭を捻らせる。
「どうしたんですか? もうすぐご飯できますけど……」
「あ」
「あ」
翔達を呼びにきたアーミアを見て、一人と一匹は同じことを思いついたのだった。
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