24 学者と変態は紙一重
農園に戻り、アーミアに食材を届けた翔は農園にあるもう一つの異世界への扉からムトの事務所に向かった。社長のことについて伝えるためだ。
運よくというべきか、ムトはまだ事務所で何か作業を行なっているようだ。
翔が異世界への扉の方から辿ったときには、自分のデスクで何か作業を行なっていた。もちろんではあるが、フクロウの姿ではない。しかし翔が前に出会った時のようなスーツ姿でもなく、ラフなセーターとジーパンを履いている様子を翔は遠くから見てとった。
ゆっくりと翔がムトの背後に近寄っていく。せっかくならば驚かせてやろうという翔のいたずら心がそうさせていた。
(何か食べてる……?)
ゆっくりとムトに近寄っていくと、何か様子がおかしいことに翔は気がついた。机に置かれたパソコンは起動しておらず、時折肩をびくっと跳ねさせては、何かをさらに嗅いでいるような……。
「って、それ俺のシャツじゃねぇか!!!」
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「おわああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
翔が視界にとらえたのは、事務所に翔が訪れた時に置いていたシャツだった。それをムトは一心不乱に嗅いでいたのだ。
そして、翔の言葉に驚いたムトの叫びに翔がさらに驚くという連鎖によって、事務所の中は高架下のようなやかましさで一瞬満たされた。
「で、なんで俺の服なんか嗅いでんだ? 変態フクロウ」
「おま……っ! へ、変態ではない! ただその……だな」
「なんだ。うわ、しかもこれ洗濯してないじゃん」
翔が奪い取ったシャツは少し湿っており、汗の匂いがしている。そんな事実を突きつけられて威厳という威厳を失ったムトは、恥ずかしそうに椅子に座ったまま項垂れる。
「に、人間に変異するとな、いつもの形態と比べて鼻がよく効くようになるんだ」
「……で、匂いフェチにでもなったってことか?」
「ゔ……」
明言はしない。それはムトが自分のプライドを守るための最後の手段だった。
「いや、良いんだ。今度アーミアがいる前でお前を撫でくり回しまくって吐かせてやる」
「それだけは! それだけはやめてくれ! アーミアにはまだこれは知られてないんだ……」
「じゃあ事情を説明してくれ。なんで俺の服なんか嗅いでたのかを」
「……その、だな」
ムトはぽつぽつと、自分が嗅いだことのない匂いを嗅ぐことが好きであることを語り始めた。
「お前の匂いを嗅ぐことで、撫でられた時の快感を疑似体験できるかもと思ったんだが、これが案外できてしまってな」
「うわぁ……」
「ひ、引くな! 私だってこんなことは初めてなんだ。分析しておかないと今後の対策にならんだろう?」
「対策ってなんだよ……俺にモフられる時の対策か?」
「そうではない! お前ができるということは、模倣できる奴も必ずいるはずだ。ソイツに同じことをされた時に、私が陥落してしまえばお前ら二人なんてすぐに死ぬんだぞ」
「言い訳が苦しいなぁ」
「あ゙ーっ! もういい! なら今ここでお前を殺してやる。前々から気に食わなかったんだ。この私を目の前にして畏怖の感情も抱かずに、呑気に舐めた口を聞くお前がなーッッッ!!!」
立ち上がったムトは翔の首にその両手を添えた。
「わかった! わかったから! 誰にも言わないし、今後別に何してても引かない!」
「本当か?」
「本当だって。というか、今日はそんなことよりも大切なことを伝えたくてきたんだしな」
「ん、なんだ。用があってきたのか」
取り乱していたムトは一瞬で仕事モードの顔に切り替わる。その後、翔はことの詳細について話した。
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