20 マッサージいかがですか
「キーウィ、疲れてそうだけど、大丈夫か?」
「……マッサージを対価に、なんていうつもりやないでっしゃろな」
じっとりとした目で翔を睨むキーウィ。
「そう……だけど」
「やめやめ。アーミア、従業員は選んだ方がええで。そんなもんで対価になると思っとるアマちゃんは商売に向いとらん。ほな」
「ちょ、ちょっと!」
キーウィは呆れたようにアーミアに手を振ると、置いている野菜や卵の入った箱を馬車につみ始めようとした。
翔はそれを止めるために、キーウィの手を握る。
「あんなぁ、何をどう言われてもワシにできることはないんですわ。アンちゃんも社会勉強してから勉強してもらおう思った方がええで」
呆れ顔のまま、キーウィが翔の握った手を振り払う。
「じゃあ見返りはいらないから、マッサージだけでも受けて欲しいんだけど」
「……はぁ?」
翔の謎の提案に、キーウィの頭上には疑問符が浮かび上がる。
「そ、そうなんです! カケルさん、マルハスたちだったり、農園の外からくる動物たちを癒すためにマッサージを覚えたんですけど、動物たちだと感想が聞けなくて困ってて」
アーミアもそれに追従するように押してきた。俺の魂胆がわかったのだろう。
「そうそう! で……あー、獣人の人に動物に近いとか言っても差別にならないかな……」
「あー、言わん方がええのんは確かや。気ィつけや。そんで、その上で何が言いたいかはわかったからその先は言わんでええ」
キーウィはため息をつきながら頭を抱えた。
「はぁ〜! えらいけったいな話に巻き込まれたわ……ほんまに、ほんまに見返りは無しでもええんなら、手伝ってもええよ。ワシもちょっと……最近肩と腰がえらい痛なっとってな」
キーウィが首や肩を捻ると、大きな音がゴキゴキと鳴る。
「いいのか!?」
「ええも何も、タダほどもろといて得なもんはないからな。ただし、フィードバックうまくできんかったらすまんね」
「最初からそのつもりだったけど、怪しまれるかなって思って。変な提案したね」
「それはええんよ。正規の値段で買ってくれるか、あるいは物々交換できるようになったらウチを頼ってもらえれば幸いやからね」
怒りが少しおさまったのか、キーウィは先ほどまでの商売口調に戻っていった。翔はそのままアーミアの家の空室にキーウィを通す。途中でムトが新たな被害者を見る目でキーウィの方を見ていたが、翔がキーウィと何を取引したのかを察したようで、何も口出しせずに去っていった。
翔が普段着替えている部屋にキーウィを案内し、使っていないベッドの上に彼を寝かせる。アーミアが翔の部屋だからと使わないにも関わらず定期的に洗濯をマメに行っているおかげで、キーウィもそこに不満を抱くことはなかった。
「上半身だけでもとりあえず脱いだ方がええんやろか」
「脱いでもらえると助かる。カーテン閉めた方がいいか」
翔が部屋のカーテンを閉め、外からアーミアやムトが覗けないようにしている間に、キーウィは着ていたシャツを脱ぎ、上半身裸になるとベッドにうつ伏せになる。
「ひっさびさやわぁ。マッサージなんてほんまもんの贅沢、最近は物価も高騰しとって一年に一回もできんもんやったから」
「ははは、それは大変だ。さ、じゃあリラックスして深呼吸から……」
翔はキーウィの背中に指を這わせる。
(マッサージなんてしたことがないが、まあ満足してもらえる程度の素人の動きはできるはず)
マルハスやムトを撫でることは、翔自身も得意だと自負している。だが、それはあくまでも動物相手の話。現実世界の応用でなんとかなる範囲だ。
だが、これが人間に近くなればどうなるのか。翔はそれができるのではないかとキーウィを一目見て一瞬で判断していた。
できる。
安易に引っかかってきたキーウィの背中と肩甲骨の間に指を入れ、人間の体と構造が同じことに驚きながらも翔はその確証をえはじめていた。
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