16 これまであったこと
あれから泣き崩れるアーミアを抱きかかえ、翔はアーミアの家に戻った。泣き疲れたのかアーミアはくったりと翔の腕の中で眠っている。翔はベッドにアーミアを下ろすと、自分の動物を撫でる能力が人間を落ち着かせることにも活かせる事実に少し安堵していた。
「どうだ」
見計らったかのように、ムトが扉の向こうから翔に話しかける。
「どうだも何も、泣き疲れたんだろうよ」
「そうか、まあ眠れたなら重畳だな」
「まあ、なんだ。アーミアに怪我がなくてよかった」
「ちょっと話しておきたいことがある。外に出るぞ」
「ん? わかった」
翔はアーミアにブランケットをかけると、家の外に出た。月が明るく農園を照らしており、いつの間にか農園に戻ってきていたマルハスたちは安心したように眠っている。
移動しながらフクロウの姿に戻ったムトは、ゆっくりと餌場の残骸に腰を下ろす。そして翔をその正面に座るように促しながら残骸を座れるようにと組み上げた。
「お前、アーミアのことをどう思ってる」
「どうって……手伝ってる相手というか、なんというか……。まだ知り合って浅いから何とは明言出来ないかも」
「ふん、くだらない嘘をつくのをやめろ。恋慕の表情くらいわかる」
つま先で地面を打ち鳴らしながら、ムトは軽い怒りをあらわにしていた。
「わかってるなら聞くなよ……。で、それがどうなのさ」
「ん、いやまぁアイツにどんな感情を抱くとしても勝手だがな、アイツのことを知らないままにそんな感情を抱き続けるバカを見過ごせないと思ってな」
意味深なことを言うと、ムトは翔に何も言わせずに続きを語りだした。
「私がこの農園に来た頃は、五人の農家と一匹の生まれたばかりの猫、そして何匹もの家畜や動物たちで賑やかな場所だった。猫に関してはこっちの世界の生物だ、少し違う要素はあるがほとんどお前の世界の猫と変わりない物だ。こう呼ばせてもらう」
「やっぱり元々人は居たのか。アーミアだけでずっと管理してたわけじゃないんだな」
「当たり前だ。こんな大きなところ、あの子一人で管理させている方がおかしいんだ。そして、この世界にも荒れた地はある。魔物や魔王がいるわけではないが、お前の世界のように人間を襲う動物は闊歩し、お前の世界以上に人種も豊富であるが故に人々の争いも多々あるわけだ」
翔はアーミアを抱えながらスマホで見た光景を思い出していた。一人は確かに覆面を被っている人間のようだったが、残りは全員狼の顔面をしていた。それが被り物だとは思えなかったが、こちらの人種として獣人がいるのであればそういうことなのだろうと納得する。
「そんな中、ひどく大きな戦争があった。ここらに住む者と吸血種との戦争だ。ここから近くの、この農園でとれたものを卸している小さな王国までも戦争に参加するほどの大きな戦争だった。ここの農園の者たちは有能な奴らでな。それでいて優しかった。だから、みんなが口を揃えて言ったんだ。『力になりたい』とな。男女の夫婦とその子供二人。そしてそいつらの知り合いの一人。全員が農園を残して王国に旅立っていった。この農園に“ここに害意をもつものを近づけない”という魔法の結界を張ってな。その頃は私もここに半分住み込んでいた。だから結界の管理も私がするとかって出たのだ」
「そうか、だからさっき結界がどうとかすぐに分かって。というか、じゃあアーミアはその中の一人ってことか?」
「話は最後まで聞け。と言ってもオチはすぐだがな。簡単な話だ。もうあれから一年半。誰も帰ってくることはないし、彼らからの便りもない」
その一言で翔の頭の上に?が浮かんだ。
「じゃあアーミアはどこの誰なんだよ」
「そうだろうな。そこが疑問になるだろうな。じゃあ話そうか。アーミアがどこの誰で、なんで私のような大魔法使いがこんなところでずっと結界を守っているか」
「お前、そんな自称してんのか」
「殺すぞ。結界の維持も罠の魔法も認知の切り替えも変化の魔法も、この世界では上位の魔法だと思え豚が」
翔の何気ない一言にムトは青筋を立てながら翼を広げる。翔が謝罪するまで会話は進むことはなく、その状態でムトは暴れ回っていた。
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