6 私は認めません!
「電気……ですか」
「そうそう、動かすための動力? みたいなのなんだけど」
「あ、電気自体はわかります。雷の魔法とかこっちにもありますし。それよりも、カケルさんのお部屋から繋げないんですか? さっきそんなふうに話していましたけど」
「んー、それができれば苦労はないんだけど、流石に二十四時間定点カメラを設置するってなると電気代もバカにならないだろうし、何よりもブレーカーが落ちるかもしれないから、別の方法を探したいかなぁ」
雷魔法がどの程度の電圧かによっては使えるかな……などと思いながら思案している翔に、突然屋根の下にいるかのように濃い影がさしてきた。
昨日と同じように雲ひとつない青空の下で、そんなことがあるはずがない。驚きながら翔が顔を上げると、上空には三メートルはあるであろう鳥が羽を広げて翔の元に向かってきていた。
「うおわぁぁぁぁ!?」
飛来するそれはフクロウの見た目をしており、顔を庇った翔の手前で悠々と着陸する。
「アーミア、この男は誰だ?」
「おはよう、ムトさん。ここで新しく働くことになったカケルさんだよ」
ムトと呼ばれたフクロウは首をぐるりと回してカケルの方を見る。
「ふむ、知らん男は好かん。アーミア、それにこの男、お前のことを好いておるようだぞ」
突然の暴露に翔は吹き出し、しかし平静さを取り戻してフクロウを見た。
「アーミア、こ、この人……フクロウ? す、すごいね」
「あ、あはは。もー! ムトさん! そういうのは言っちゃダメなんですよ! えっと、ここの農園が好きでよく来てくれるムトさんです」
「ムトだ。しかし、こんなブタ男がアーミアのことを好いている事実が私にとって不快なのでな」
フクロウはのし、のしと翔の方に近寄り、全身を眺めた。
「それにこの男、魔力も少ないカスじゃないか。アーミア、こんな男早めにフった方がいいぞ」
「そんなこと言わないでくださいよ! カケルさんはここを助けてくれようとしてるんですから! あ、そうだ。ムトさん、ちょっと良いですか?」
「なんだ?」
「ムトさんって雷魔法とかも使えましたよね? ちょっと手伝って欲しいんですけど……」
アーミアは今の状況をムトに簡潔に伝える。しかしムトは話が進むにつれ、怪訝な顔になっていった。
「はぁ……一応言っておくが、私はそんな下等な人間の手助けなどせん。それに加えて私のお気に入りの場所が二十四時間監視されるなんて全くもって許可できるわけがないだろう! あとそのブタ男のアイデアに賛同したくない」
バサ、と大きく翼を広げながら、ムトは怒りに任せて地面を踏み鳴らす。猛禽類の鋭い鉤爪が地面を叩くたびに芝の生えた土を深く抉っていた。
「このフクロウ、だいぶ面倒くさいね……。見た目はかっこいいのに」
「はは……まあ悪いフクロウさんではないんですけどね」
翔達がそうやって呆れているうちにムトの怒りもおさまったのか、ムトは羽を閉じていった。
「とにかく、私のお気に入りの場所を荒らすのであれば人間、お前を殺す……人間?」
鋭い殺気をムトが翔のいた場所に向けるが、そこに翔はいなかった。
「あの、カケルさんならそこですよ?」
「ふむ?」
翔はムトの怒りがおさまった瞬間にムトの懐に潜り込んでいた。
「なっ!? お前! 何をする!」
「いや、まあせっかくだからちょっと撫でさせてもらおうかなって。殺されるならこんな大きくて毛並みも良いフクロウ、撫でておかないと損だしね」
「ふざけるな! 私を誰だと思っている! やめろ!」
翔がムトの翼を撫で始めると、アーミアは何かを思いついたようにニヤリと笑った。
「良いじゃないですかムトさん。知ってました? カケルさんに撫でられたマルハスたち、恍惚って感じの表情でしばらく動かなかったんですよ?」
アーミアは先ほどまでカケルに撫でられていたマルハスの一匹を持ち上げる。その顔は確かに嬉しそうだ。それを見たムトは青ざめながら翔にさらに抵抗する。しかし、その力は明らかに弱まっていた。
「すげぇ、デカいフクロウかと思ったら体表にも結構柔い毛が生えてる」
段々とムトの足は空をかき始める。自らのかけない、ちょうど良い場所を翔の手がふれ始めたからだ。
「あ、すみません! 私ちょっとやらないといけないことがあるんだった! ムトさん、カケルさんをよろしくお願いしますね!」
「ま、待てアーミア! わかった! 少しなら手伝うから! 私をこの男と一緒に、あっ……そこ良いでしゅ……」
「ここ? じゃあもうちょっと深めに……」
翼の付け根に指を入れた翔の行動にムトの言葉が遮られている隙に、アーミアは仕事に戻って行った。
・・・
「あ、あひ……」
「あー……なんかすごいですね……」
少し、本当に少しの用事を済ませてアーミアが戻った頃には、閉じ切らない翼を地面に力無く伏せながら、舌を出して倒れているムトの姿があった。
「ははは……ちょっと楽しくなっちゃった。こんなに大きいの触ったことなかったから……」
翔が恥ずかしそうに頭を掻く横で、アーミアがムトに歩み寄る。
「で、ムトさん、手伝ってくれたらこれが毎日受けられるんですけど、どうですかね?」
「て、手伝いましゅ……」
「お、マジ?」
恍惚とした表情のムトは鉤爪の先からすでにピリピリと静電気を漏らしながら言った。
「よし! じゃああとは配信準備だけだな!」
翔は勢いよく言うと、電気がないがために放置していた機材を組み立て始めていった。
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