11 お姫様と王子様

「――うぐっ」

 その途端、わたしは、うめき声をもらした。あ、足が痛い……わたしは完璧な歩き方ができるようになった。

 だが、時折足に激痛がはしるのだ。


「ど、どうしたの」

「……な、なんでもないわ」


「足が痛いんじゃないの? 家まで送ってくよ」

「だ、大丈夫だったら」


 だめだ、両足足に電撃のような痛みが――わっ? 君武は、わたしを軽々と抱きかかえた。


「なんなの! 勝手にさわらないで!」

「落ち着いて……足に負担をかけちゃダメだよ。それとも、ぼくにおぶさる?」

「……これでいいわ」


 そして、わたしはアレッと思った。

 王子様に抱きかかえられるお姫様。お姫様の靴はちっちゃくてきれいで……これが、わたしの理想の未来ってこと?


「あのさあ、きみ……かなり重いよ……もうちょっとやせたほうがいいんじゃないかなあ……」

 君武は、ぜえぜえと苦しそうにいった。


「やせるだなんて、レディがそんなことできるわけないでしょ」

「でも、健康がいちばん大事だと思うなあ」

「いいから、早く車に連れてって!」


 あーあ、こんなのぜんぜん理想じゃないわ。

 太ったお姫様を軽々と抱える王子様ってのが、わたしの夢だったのに。


 わたしを家の前まで送り届けた君武は「紅玉ちゃん、何かあったらいつでも連絡してね」といった。


「何かって、なによ」

「だから……困ったことがあったりしたら……」

「よけいなお世話よ。あなたこそ、どうなの。もうパパのペットはやめたの?」


 彼の顔がこわばった。しまった! 言い過ぎた……。


「君武、あの……」

「お大事に」


 彼はそういって、わたしの前から去っていった。

 わたしは部屋で足をマッサージしながら、むしゃくしゃしていた。


 ……彼に抱きかかえられて、ちょっとドキドキした。まるでシンデレラのお話のよう。

 だけど、彼はわたしの足を見てガッカリした。まるで私の足が奇形だというふうに見て……わたしはそこに傷ついていた。


 せっかく足を縛ったのに。美しくなるためにがんばったのに。どうして――ああ、だからいじわる言いたくなったんだ。


 窓から彼の去っていった方向を見つめて、わたしはつぶやいた。


「もっと小さい足になりたい」

 みんながわたしの醜さに気づかないうちに、早いとこパートナーを見つけて、この社会での「上がり」になろう。

 大丈夫、わたしには足も体重もある。テストで百点取るよりずっと簡単だわ。


 そうしたら、こんなくだらないこと、きっとすぐに忘れられる。子どもを産んで、息子だったら科挙を受けさせて、娘だったら纏足させて……そう、わたしはきっと幸福になれるわ。それでいいのよ。


 だけど、足の痛みはますますひどくなってきた。

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