第5話 パンドラの箱



自室での優雅な時間を楽しんでいる中。


「アグネス‼重大発表だ‼」


豪快に扉を開けたのは、勿論ベルガだった。


「………ちょ、ベルガ。女の子の部屋はノックして入ってください。着替えてたらどうするんですか?」


「あぁすまんすまん。つい興奮しちまって」


えへへ、と頭をかくベルガ。


まさに迷惑だけれど、なんだか憎めない。


そして、仕方なく笑って流す自分がいる。


「って、そういう重大発表って何ですか?」


「そうそう!実はだな………」



「初任務!?しかも今日から!?」


前言撤回。これは笑えない。


「いやー、急に決まってな。本当は属性鑑定をしてその属性に合った杖を取得してから……と思ったんだが、アグネスなら大丈夫だろうってことで」


「いや。私にも心の準備ってものがあるんです!」


それに、任務ってことは………暗殺、ってことだよね?


そんなすんなりと、少女に殺しをやらせるって大丈夫か。


「そりゃすまんな。でも、一回やってみたらどうだ?任務は俺の部下たちもついてくるし……何より、そんな丈夫な防御魔法があれば、なんとかなるだろう!」


「………はい」


暗殺系の魔法は防御魔法より攻撃魔法が需要になる。


というよりか、そもそも攻撃魔法が無かったら暗殺できないじゃん!?


まさか現地で新しい攻撃魔法を生み出せとかじゃないよね。


するとベルガは任務までゆっくりと休むがいい、と言い、扉を閉めた。


「習うより慣れろ……ってことか」


そうつぶやき、椅子に重たく腰を掛けた。




■□■⚔■□■




「ワイルドウルフ?」


私は今回、近辺に出没しているというワイルドウルフの退治をするらしい。


あれ………暗殺はいったいどこへ?


「俺にも流石に配慮ってものがある。アグネスがいくら強いだろうと、少女に殺しをやらせることはできないからな!」


「ベルガ………少し見直しました」


「ナハハハ。そりゃあ嬉しいな」


ちょっとだけ皮肉を込めて言ったけど………単純すぎて気づいていないな。


「だから、アグネスが15才を超えるまでは、依頼された魔物狩りを行ってもらう」


………まあでも、ベルガのことだから、強制ではないんだろうな。


私が進みたい道が別にあれば、ベルガはきっと応援していてくれる。


そう思うと、不思議と胸が温かくなった。


人間は、生きる時間も少ない中で、誰かの温かさに押され、誰かの為に生きられていると感じるのか。


そうだ。人間は、自分の必要価値を示さなければ、生きていけないんだ。


自分に必要価値が無いと知れば、人間は希望を失う。


なんて単純な生き物。


………でも、誰かがくれた少しだけの暖かさが、生きる希望を取り戻す。


まるでパンドラの箱のようだ。


人間にとって、希望はときに災いになり、ときに生きる気力となる。


「不思議な生き物」


「ん?何か言ったか?」


「………いいや」


不思議と機嫌がいい私に、少し疑問に思うベルガ。


「あ、ヤバイ。もう依頼時間すぎてる」


「………へ?」


思わず、自他ともに認めるだろう間抜けな声が出た。


「急げアグネス‼」


「それを早く言えっつーのぉぉぉおお‼」


少女とは思えない口調の悪さで、ベルガに怒りを爆発させた。


そして休む暇などなく、任務に強制連行という始末………。


こんな生活の中で、兄上に認められる日は来るのだろうか………。


ベルガに連れ去られながら、小さなため息を吐いた。







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マジ神様~神なのに路地裏に転生しました。仕方がないので神の本気を見せてやります~ 仮面の兎 @Serena_0015

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