第4話 お婆さん、暴走!?
「アグネス、鑑定結果はどうだった?」
長時間の休憩で復活したベルガは、楽しみそうに鑑定結果を待っていた。
どうも三十分はこの状態だったらしく、私が部屋から出るなり奇声を上げそうになったんだとか何とか。
「それが………よく分からないんです」
「どういうことだ?」
私の言葉に、困惑を隠せなていないベルガ。
まあ、そりゃあ不死魔法を取得した鑑定士が、属性の鑑定すらできないだなんて、ベルガにとったら前代未聞だもんな。
「お婆さん、鑑定した直後、赤子みたいにギャアギャア騒ぎ始めたんです。かなりの興奮状態らしくて、結果を聞き出せなくて………」
「あの婆がか?信じられなんな」
半信半疑の目を向けてくるベルガ。
「ベルガも見に来てください。嘘じゃないことがよく分かるので」
そう言って、鑑定室に駆け込むベルガ。
すると部屋の前で、立ち尽くすように足を止めた。
「なんてこった………」
後に続いて鑑定室へ駆け込むと、ベルガがらしくない顔で頭を抱えていた。
「わしゃの鑑定は宇宙一じゃ‼相手がどんな逸材であろうが、神であろうが、鑑定できないわけがないのじゃ!わしゃは悪くない。この水晶が悪いのじゃ!こんな水晶いらんわい!砕けちまえ!」
水晶が壁に投げつけられる。
ガラスの音と共に、水晶にひびが入った。
それでも、お婆さんの力じゃ水晶は簡単に砕けなかった。
「ええい!ならば炎で………」
「それはッ………!」
ベルガが本当に焦ったような表情で、お婆さんを止めに入る。
「{ブレイズボーン}」
孫が婆に勝てるはずもなく、瞬く間に魔法らしき炎が杖から放たれた。
それは私をロックオンしたかのように、一直線へ向かってくる。
「アグネス………ッ」
ベルガの焦ったような悲鳴のような声が、すぐそばで聞こえた。
早すぎる。
―――――……死とは、こんなにも早く降り落ちてくるものなのか。
生きる希望とは、こんなにも浅はかで小さなものなのか?
人間たちは、生きる希望も時間も少ない中、何のために生まれ、何のために生きているのだろうか。
私の神としての人生は、こんなにも地味に終わりを遂げるのか………?
ボォォォオオオ
爆発音に近い音が、耳元で聞こえた。
そこで、意識が途切れた。
■□■⚔■□■
ァ……
ァ……ネ………
アグネス‼
「ゴホッゴホッ………」
「アグネス‼起きたかアグネス‼」
先程の爆発音に負けないくらいの、ベルガの声が聞こえた。
今にでもうるさい、と言いたかったが、それよりも重大なことに気が付いた。
「生きてる………」
ベルガの声が聞こえてる。手の感触がちゃんとある。目も見えてる。
「私、生きてる‼え、生きてる!?」
「アグネスにしては気づくのが遅いが………でもそんなのどうでもいい。なにより生きているんだからな!よくやったぞアグネス‼」
頭をくしゃくしゃにかき混ぜられる。
「痛い痛い………強すぎるよベルガ」
私の言葉に、すまんすまんと謝るベルガ。
「でもな、俺よりアグネスの方が倍は強いと思う」
「どういうこと?師匠より弟子が強いって、おかしくない?」
真剣な目をしてそう言ったベルガに、少し焦る。
「アグネス、なぜ自分の体にひとつも傷を負っていないと思う?」
「傷………?」
ベルガの言葉に、はっとした。
私の両腕には、傷どころか汚れひとつ付いていないのだ。
するとベルガは、今まで起こったこと教えてくれた。
― さかのぼる事1時間前 ―
「{ブレイズボーン}」
お婆さんの杖から炎が放たれた後。
「{ファイアウォール}」
何かしらの呪文を私が唱え、
それと同時に私を囲うように防御魔法の壁が生まれ、お婆さんの球を跳ね返した。
だけど初めて魔法を使ったからか、負担が大きく気絶してしまった………。
そして今に至るらしい。
「あんな高度な防御魔法を属性鑑定も杖も無しで使えたなんて………」
とは言われたが、ベルガの話がおかしいことに気が付き、返事の言葉を直前でのみ込んだ。
ベルガの言うに、全方位を囲うような壁だったならば、私の魔法は防御魔法の全面展開と言える。
そしてお婆さんの魔法は、闇属性。
物理というよりか、精神的魔法に近いものだと思う。
普通の精神魔法ならば、防御魔法で防ぐことはできる。
だけど相手は不死魔法を取得した魔法使い。私より何倍ものベテランだ。
そんなお婆さんの精神魔法なら、普通の防御魔法じゃ防ぐことはできないだろう。
ということは、私の防御魔法は精神魔法の防御に特化した魔法だと分かる。
昨夜見た本の中で、杖を所持することにより、より一層魔法の威力が上がる、と書かれてあったのを見た。
でも私の場合、防御魔法の全面展開+精神魔法に特化した防御魔法を合致させた魔法を、杖なしで起こしている。
才能のためかもしれないが、才能は才能でも、それを発揮させる能力が必要になる。
つまり、魔力+呪文=魔法 のように、才能+経験=高度な魔法使い になるのだ。
魔力トレーニングのみをひたすらやってきた私に、経験など一切ない。
そんな私が高度な防御魔法を使うなど、ありえないことだ。
「確かに、アグネスの言う通りかもな」
ベルガの言葉に、ビクッと心臓が跳ねた。
「もしかして………心の声、漏れてました?」
「ばっちり聞こえてたぞ。しっかし、そんなこといつ覚えたんだー?全く、子供の好奇心には驚きだ」
ベルガは気づいてないようだけれど、その言葉に、私の背筋が急激に寒くなった。
もしも私が神であることを心の中で言っていたら、今頃どうなっていたのか………。
まさか自分の弟子がアルファイラ張本人だったなんて、知られたら気絶するのもありえそうだ。
「まあ、別にいいんじゃないか。そんな難しいことばっか考えてないで、気楽でいた方がさ。知ってたか?魔法は精神力にも影響があるんだぞ!」
ガハハハッと、豪快に笑うベルガ。
私が死にそうになったのにこんな気楽でいられるなんて、逆に尊敬だ。
………でも確かに、謎は解き明かせなくてもいいのかもしれない。
私のように、無知から新しい魔法が生まれるんだから。
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