第3話 鑑定店の不死者



「ベルガ、属性鑑定の店って、ここで合ってますか?」


「うん………」


薬草茶を飲み切れず、すっかり気力を失くしたベルガは、とぼとぼした足取りで店に入っていった。

私もベルガの後を追って、店に入る。


チャリン


店に入るのと同時に、風鈴のような音がした。


すると奥の部屋から、高齢の女性が顔を出した。

いかにも水晶で予言をしていそうな容姿。


「お客さんかい?奥の待機室でおくつろぎ。すぐに鑑定の準備をするからね」


ベルガはお婆さんの言う通り、奥の待機室に腰を掛けた。


「お、そこのアンタはベルガじゃないか。久しいのぅ」


目を細めて笑うお婆さんに、訊ねかける。


「お婆さん、ベルガを知っているんですか?」


「おぉ。こりゃベルガの連れかい?13の年と聞いておったが………にしては少し小さいな」


「うぐ………ッ」


神は、人類より遥かに大きな寿命を持っているため、人間よりも感情が薄い。

だけれど、神も生物に近い存在。傷づくものは傷つく。


そんな神の中でも傷つきやすい私なのだから、あまりショッキングなことは言わないでもらいたいっていうのが願望なんですけどね………。


まあ、元々この体は私のものではないんだから、関係ないけどっ!


するとお婆さんが、話を戻し、ベルガについて語り出す。


「べルガのことはよく知っておるぞ。なんたって実の曾祖母だからな」


「へぇ、そうなんですか………って、え?」


曾祖母?

確かベルガは26って言っていたけど………。


「お婆さん、一体あなたは何歳なんですか!?」


「女性に年齢を聞くのは失礼と、教えられたことはないかね?」


「はっ……すみません」


今更気が付いた自分の失敬に、思わず手で口をふさいでしまう。


「ヒャッヒャッヒャッ。別に構わん」


「いいや、本当に申し訳ないです………」


私も現世の子供たちに不老不死ババアなんて言わることがあるから、お婆さんの

気持ちがよく分かるんですよ…………。


同類か、と思い、少し気が和らぐ。


「………ヒャッヒャ。面白いのぅ。よかろう。特別にわしの年齢を教えてやる」


「本当に?………私が失礼なことを言ったのに」


そんな私に、「別に構わん」と言うお婆さん。


「正直のところ、あまり年齢は覚えておらん。だが、確実に人類の寿命を超えておるわい」


お婆さんの意味深な言葉に、頭を傾ける。


「人類の寿命を超えたって、お婆さんは人間じゃないですか?」


そう質問する私に、よくぞ聞いてくれた、という顔をするお婆さん。

こういうところも、ベルガにそっくりなんだなぁ………。


「いいや。わしゃ300年の寿命を手に入れる、不死魔法を長年かけて取得したからの。まあこのことを世間に知られたら、確実に監禁じゃろうな。ヒャッヒャ」


「………なんだかヤバそうですね」


「そりゃそうじゃろ。世界が血眼になって追い求める不老不死の魔法じゃぞ。

魔法は鍛錬の時間で強さが決まるんじゃ。不死の魔法があれば、神々に一歩近づいたと言っても過言ではない」


神に一歩……?


神はひとつひとつの世界を支持する役目があるから、膨大な権力と魔力があるのはよく知っている。


だけれど、もし人類が神の力を手にしてしまったら……?


背筋が急激に寒くなった。


「なんでそんなことすんなり言っちゃうんですか!?しかも初対面の私に、女性の年齢の話で‼」


店舗内というのにも関らず、相当な大声で叫び狂ってしまった。

いや、叫び狂うだけで終わる私だったのが、幸運だったと思う。


だけれど、もしほかに客がいたとすれば、確実に私が迷惑客と認知されていただろう。


私にまで被害が及んでいるのにも関わらず、お婆さんは先ほどと同様、ニヤリと笑みを浮かべていた。


その笑みも、今じゃ悪魔の笑みにしか見えない。


「お主、ベルガの弟子じゃろう?」


「えぇ………まあそうですけど」


「わしの子孫じゃぞ。それほど逸材じゃなきゃ採用せん」


逸材というのは、抜きんでて優れた才能のことを示す。


果たして、死骸を気絶せず見た私というのは、逸材と言うのだろうか。


本当、この家族には振り回されてばっかりだよ………。


「少し話が外れたな。すまんすまん」


「いや外れ過ぎですよお婆さん。この世界の未来揺らいじゃってますよ」


「まあ、たまにはそんなことも刺激的でよかろう」


やっぱりダメだこの人………。

もう精神も気まぐれの神に近づいているのでは?


「お、鑑定の準備が整ったようじゃな。お主は奥の部屋に移動せい」


「はい………」


まだ鑑定すら始まっていないというのに、私は今にでも過労死しそうだ。


そんな危うい足取りで、私は鑑定室へと向かった―――――……。


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