本編
本編
23:00。
(浅草寺にどうしても行ってみたい。)
そう思った瑠華は、ホテルを飛び出した。家族にばれたら一大事。だがしかし、そんなことを気にせず、瑠華は、スマートフォンのマップ機能で調べた浅草寺の行き方を頼りに、浅草寺へと向かった。
目的地に着く頃にはもう0:00を越えていた。そこには心なしか廃れたように見える浅草寺があった。人は誰一人おらず、境内のお店も全部閉まっている。
(お店が閉まっているのは分かるけど、人が誰一人もいないことなんてあるのか?)
と疑問に思いつつも、瑠華は、境内に入った。賽銭箱の前に立ち、持ってきた5円玉を投げ入れる。箱の奥でちゃりんと音が鳴ったのを確認してから瑠華は、鈴を鳴らした。じゃらじゃらと音が鳴る。その音は何故か不気味に感じた。瑠華が祈りを捧げ、帰ろうとしたその時だった。ひゅ~という音と共に瑠華の身体の回りを風が吹き始めた。その風は、夏だったのにも関わらず、物凄く冷たく、冬を彷彿とさせた。
「何が起きてるんだ…?」
と瑠華が呟くと、何処か遠くからしゃんしゃんという音が鳴り始めた。その音は、段々近づいてくる。瑠華は、怖くなり逃げ出そうとすると
「うっ…!」
金縛りにあった。身体が動かない。瑠華は、音の正体を探るべく、その音が何処から来ているのか耳を澄ましてよく聴いた。しかし、音の出所は掴めない。すると突如、浅草寺の入り口から死装束を身にまとった人らしき物が神楽鈴を持って、急に、しかも複数現れた。瑠華は、息を飲んだ。逃げようとしても身体は言うことを聞かない。そんな状況でも死装束を身にまとった物たちの足は止まることなく、どんどん瑠華の方に近づいていく。入り口と賽銭箱のちょうど中間地点に死装束を身にまとった物たちが来た辺りだろうか。瑠華の脳に
「南無阿弥陀仏。」
と言う男の物凄い低い声が鳴り響いた。瑠華は、怖さのあまり、過呼吸になってしまった。何が起きてるのか分からなかったが、その死装束を着た人らしき物に追い付かれたらそれは死を意味するのだと悟った。
「やめろ!やめてくれ!頼むから!」
瑠華は、叫んだ。しかし、死装束の物たちは、どんどん近づいてくる。遂に、その物たちは、瑠華の目の前にやってきた。そして、瑠華を囲み、その物たちも南無阿弥陀仏と唱え始めた。瑠華は、恐る恐るその物たちの顔を笠の隙間から覗き込むと、震えた。顔がなかったのである。瑠華が唖然としていると、瑠華の正面にいる死装束の物が神楽鈴を鳴らすのをやめた。次の瞬間その物は、神楽鈴を瑠華に振り上げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
瑠華は、突如目を覚ました。隣では家族が寝ている。どうやら、悪夢を見ていたらしい。
(夢か…。)
そう瑠華が安堵していると瑠華の手に何かが握られていた。恐る恐る拳を開くと、そこには見覚えのある鈴があった。それを一振りしてみると、しゃんと聞き覚えのある音がした。
風吹き鈴鳴る恐ろしき寺 忠実 零 @chika666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます