第5話 Deofol

目の前に 忽然 と現れた

 赫 い足跡。それは車両を行っては

戻り、そして又 目の前 に立つ。



目当ての駅が近づいて来る。

 その希望の中に潜む 絶 望 が。



単に、司法書士に書類を渡しに行った

只それだけの事だった。

 今となってはその書類の 行方 も

定かではなかったが、もう二度と

あの 無人駅 に行くのは厭だった。


 それ以上に、あの駅 に戻るのも

恐ろしかった。

        起 点  の駅



そこで思わず、立ち上がり窓際に。

 車内のサイネージは、電車の進行と

共に、通過した駅を。そしてこれから

目指す駅の名を表示している。


見た事もない、知らない  駅 が


「……あぁ。」声が漏れるが、それは

発語した側から掻き消されてゆく。



この町を取り囲む路線は

 歪な 輪 を描いている。それは

環状線の様でいて、決して交わらない


不完全な 永劫 の繰り返し。



よく確かめなかった自分を責めたが、

すぐに 致し方ない事 と納得した。


どうやら起点の駅に戻る 上り では

なくて 下る 電車に乗った様だった。

 かといって、次の駅で降りて乗り直す

勇気はなかった。


    不完全な 運命 の 輪

ウロボロス の 不条 理



このまま電車に乗って、一体どこに

辿り着くのか。

      もう、どうでもいいか。




過ぎゆく窓の外のぼんやりとした灯り。

窓の外は溟く、時折過ぎ去る踏切の

遮断燈の  赫い 色。

 その緋に照らされた頭のない 何か

あれは一体何なんだろう。電車の進路に

繰り返し現れる。


窓の外に意識をやれば車内の 足跡 は

見ずに済む。 足跡だけになった 赫



「……もし。」突然、声が掛かるが。

「…。」振り返るのが怖くて聞こえない

振りをした。

「………もし。」だが、それ は再び

声を掛けてくる。


 どうしようもない。もう自分では

何か を決める事も叶わない。只々、

線路に従って行くしか術はない。


「…もし。」三度目の 声 が、もう

逃げられないのだと暗に示唆する。


窓の外は、相変わらず 闇 に紛れて

  赧い 何かが通り過ぎて行く。

踏切の甲高い 警報音 が、繰り返し

渦巻いては過ぎ去って行く。


   そして初めて車内を振り返る。


「………っ。」

目の前にいるのは 昏い 闇を纏って


  一瞬にして、崩れ去る。




蜥蜴 鴉  蛇  それとも、 人 

 ほんの一瞬だった。容貌を持って

いた筈の 昏いナニカ は、目の前で

崩れ去り、黯い 残滓 を拡散させて

霧のように消えてしまった。


   ほんの、一瞬の事だった。



電車は走り続ける。


この町の中心は、 墓地 だ。


  何処から乗ろうが、どの駅で

降りようが。


逃げる事など出来はしない。永遠に

彷徨い、見張られ干渉される。




一体、自分は何をしているのか。

 何をしなければならなかったのか。



何をしているのか。 



   何を してしまった のか。


「……。」一つ、深いため息をついて

また座席に腰を下ろした。





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