第6話 俺、勇者頑張ります!

俺は天界から王の間に意識を戻し、王様たちに自分のステータスを見せるため、ステータスプレートを表示する。


興味津々の王様や貴族たちであったがステータスプレートを見た反応は


「「「…………………………」」」


ただただ絶句するだけであった。


それはそうですよね。

救いを求めた勇者が自分たちよりレベルが低いとあっては何も言えませんよ。

王の側近である執事のコロネさんですらLv25らしいです。

優しかったコロネさんもそんな馬鹿なと言いたげな表情で俺を見つめていた。


「……えっと、シエロよ」


「……はい」


「そなた……ウレールを救えるのかの?」


王様の意見はご最もです。

疑うのも当たり前です。

俺も思ってます、俺ウレール救える?って。


王の間はさっきまでの盛り上がりが嘘のように静まり返る。

するとさっきまで座って見ていた王女様が立ち上がり、言葉を発する。


「お父様、シエロ様はこの国のために遥々はるばる遠い世界から来てくれたのです!弱いからと卑下ひげするのは大間違いです!!シエロ様。あなたが勇者であることに変わりはありません。急に呼び出してこのような無礼をお許し下さい」


王女様は深々と頭を下げ、こんな弱い俺をまだ勇者と言ってくれるのだ。


王女様の言葉は俺に気づかせてくれた。

そうだ、俺は勇者なんだ。

Lv1とはいえウレールを救える可能性は持っているはずなんだ。

俺は王女のおかげで自分にはやるべきことがあると思い出した。


魔王フミヤ・マチーノを倒す!


やれないではない、やるしかないのだ。

それを条件に転生しているのだから最初から投げ出してどうする。


「お心遣い感謝します、王女様。失礼ながらお名前を聞いてもよろしいですか?」


「ユウリと申します。ユウリ・ヴェイン・アスティーナ。長いので気軽にユウリと呼んでください」


「ではお言葉に甘えて。ユウリ様、こんな俺を勇者と認めて下さりありがとうございます」


「ユ・ウ・リです。私たち歳も近そうですしユウリでいいです。様など入りませんよ」


どこの誰かもわからない弱弱勇者な俺。

そんな俺に優しく声をかけてくれるユウリはまさに女神様。


アリスと同じように名前を強調してくるがアリスとユウリでは強調する意味合いが天と地の差。

うやまえと言ってくるアリスとは違い、ユウリは本当に俺のことを対等に見てくれている。


純白のレースをまとったかのような白い素肌。

華奢きゃしゃで守ってあげたくなる体。

エメラルドのような緑の澄んだ瞳。

気品のあるなめらかなロングの金髪。

そして俺に向けてくれる純粋な笑顔。


「俺…やります。シエロ・ギュンターはユウリ・ヴェイン・アスティーナ様をお守りするため勇者として戦うことをここで誓います」


片膝を床に着け、俺はユウリに頭を下げる。

やめてくださいとユウリは言うが俺の決意を形にしたかったのだ。


俺はユウリに笑顔を向けてもらうために戦いたい。

まだ何も知らない世界のためではない。

俺に初めて優しくしてくれる女性を守るために勇者をしたい。


「俺のこともシエロと呼んでください。ユウリさ……ユウリ」


「わかりましたわ、シエロ。これからもよろしくお願いしますね」


俺がユウリと呼び捨てにしてもユウリは笑顔で返してくれた。


お父さん、お母さん。

俺、江口軍太改めシエロ・ギュンターは元いた世界では早くに死んでしまいました。

でも今とても幸せです。

俺……遠い世界で恋をしてます。初恋です。

胸張って言えます、ユウリを好きだと。

心配してくれているかもしれませんが俺は新しい世界で勇ましく生きていきようと思います。

ユウリという女神様の笑顔を守れる男になります。


「使える王はわしじゃないのか〜」と言う情けない王様。

「女神は私でしょ!」と頭の中で叫ぶスカポンたんなアリス。

そんな声を無視して、俺は両親にユウリへの誓いを心の中でつづるのであった。





シエロ、ユウリ、そして王様の3人は今後の話をするため、一緒になって夕食を取ることになった。


「そういえばわしの名を言っておらんかったな。わしはこの国の王リュード・ヴェイン・アスティーナである」


「………」


「おい、シエロ!人が自己紹介しとる時は手を止めんか!わしはこの国の王じゃぞ!!」


「お父様!シエロに向かってなんで口聞くの!!勇者なんだからシエロ様でしょ!!ねー、シエロ」


「ねー」


「ユウリ……ああ、ユウリよ」


Lv見て態度を変えてきたやつなど無視して食事を進めていると、リュードはそれにたいして怒っていたが、ユウリはそのリュードを怒ってくれた。


リュードは親バカなのだろう。

ユウリに怒られて言い返すことなくただただヘコんでいた。


「……まあいい。そのまま聞けシエロよ。そなたには勇者として戦場に参加して欲しいが今のLvでは到底力になるとは思えん……いやユウリよ、そんな目でわしを睨まんでくれ」


リュードの話にまた怒るユウリだったが、この話はちゃんと聞かなくてはと思い、俺は一旦ユウリの怒りを引っ込めてもらった。


「そうですね。今のままでは戦力にならないかと自分でも思います。Lvもですが実戦の経験も全く足りないかと」


「うむ。そこで提案なんだが。今やってる戦闘は大規模ではあるが1日2日で終わるような戦いではない。向こうも全力ではあろうが狙っているのが我が国だけでなく、全世界への同時進行作戦なのじゃ。そこでだシエロ。かなり短い期間ではあるが修行に出てみらんか?もしかするとこの戦いに間に合う成長をするかもしれん」


さっきまでの情けない王にしてはいい案を出す。

たしかに今のまま戦場に行くのは死ぬだけだが、経験を積み、Lvを上げれば希望は見えてくるかもしれない。


「いい考えだと思います」


「そうか。ではその方向でシエロには動いてもらうことにしよう。コロネ!」


リュードは俺の合意を得るとコロネを呼び出す。


「コロネよ、スラ高原に行けるゲートを開く準備をしておいてくれんか?」


「かしこまりました」


コロネはリュードの話を聞き終えるとすぐさま部屋を出てゲートの準備に取りかかった。


スラ高原。

これが俺シエロの異世界戦闘の第一歩になるんだな。

冒険はゲーム好きにはたまらないイベント。

俺は胸をワクワクさせて食後のデザートを堪能していた。




だがこの時のシエロ・ギュンターは知らない。

スラ高原で誰も見たことのない強力な魔物に遭遇するということを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る