第5話 何してくれてんのお前?

声の主は自分の名前をムカつく話し方で宣言しやがった。

俺を監視している女神アリスだった。

監視するとは聞いていたが声を掛けてくるとは思ってもいなかった。


「あれ?私言ってなかったっけ?私とえぐ……シエロは会話できるようになってんのよ」


また心を読んできやがった。

今また江口って言いかけたな?

シエロ定着してないじゃん!

てか俺の考えはアリスに筒抜けってことか?

やばいなそれは。


……でも逆を言えば今の状況を打破するためにはアリスにいろいろ聞くしかない。


アリス、アリース。聞こえてるか?


「聞こえてるわよ。スキルLvとアーツのことよね?それも教えてなかったっけ?てか私とあんたって何の話したんだっけ?」


こいつマジかよ。

話さなきゃいけないこと全然話さずに俺を転生させやがった。


お前ふざけんなよ。これ終わったらちゃんと全部話せよ?


「話します、話しますって。それよりシエロ。あんたの思ってることってこっちのモニターだとテレビの副音声みたいに聞こえてくるのよ。なんか気持ち悪いからこっち来て話してくれない?」


そんなことできるのか?

でも急にいなくなったりしたら王様たち驚くぞ?


「意識だけこっちに集中すればいいのよ。さっき天界見たでしょ?天界の光景考えながら意識を飛ばせばこっち来れるようになってるのよ。何聞いてたのよ?」


そんなことができるんだ……ってそれも聞いてないよ、ふざけんな。


……とりあえず俺は今の状況を打破するために一度天界にいるアリスと話すことにする。


意識を集中、天界…天界。

俺はさっき見た神々しく輝く空間を考えながら意識を飛ばしてみる。


するとどうだろう。

さっきまで王の間にいたはずなのに今はアリスが言っていた天界に自分がいるのだ。


「あ、来た来た。こっちこっち」


天界にある螺旋らせんの階段。

その高さは建物の2、3階ぐらいだろうか。

俺は階段の上から聞こえてくるアリスの声を聞き、階段を駆け上がっていく。

するとそこには思ってもいなかった光景が広がっていた。


「畳……ちゃぶ台……テレビ……」


螺旋階段の上にある空間はまるで一般家庭のお茶の間のような風景であった。

畳にちゃぶ台、その上にはお茶とせんべい。そして王の間をモニタリングしているテレビ。

それを横になって眺めてるアリス・ハート・バレンタイン。


「シエロもお茶いる?せんべいは私のだからあげないけど」


俺が頭使って今の状況どうしようか考えてる時にこいつ。

俺があたふたしてるのを昼ドラ感覚で見てやがったのか。


「……」


俺はアリスのダラケ姿に怒りが込み上げ、アリスの首元に飛びかかる。


「え、何何何?ぐへぇー。あんたまた女神の首絞めて!く、苦じい」


天界では心が読めないのだろうか。

俺はいとも簡単にアリスの首を絞めることに成功した。

そして首を絞めながらスキルLvやアーツについて聞くことに…


「苦じーから手ー離してー」


…強く締めすぎたか。

俺はアリスを解放し、畳に座ってじっくりとアリスの話を聞くことにする。





俺はアリスからスキルLvとアーツのこと、そして自分のステータスについての重大なことを聞いた。


スキルLvは名前の通りスキルのLvのこと。

言われてみればその通りだが俺には気づけなかった理由があった。

俺のスキルにはLvなど書いてなかったからだ。


アリスに確認したところ自分のステータスやスキルはステータスプレートというもので確認することができるらしく、開いてみると誓約書を見た時と同じものが表記されていた。

Lvが1なら勇者の加護Lv1というふうに表記されるらしい。

だが俺のスキルはどれもLv表記がない。

つまり現段階で俺のスキルLvは0らしいのだ。

これは自身のLvを上げてスキルポイントを獲得するしか無いらしい。


そしてアーツについて。

アーツと言うのは斬撃を強くしたり魔法を撃てるようになったりする、いわゆる必殺技のことである。

アーツを習得するには自身のLvを上げるか、スキルのLvを上げるしかない。

つまり今の俺はただ、勇者の系統ですよーの状態。


そう、結論で言うとシエロ・ギュンターくんは今すぐ戦える最強勇者ではなく、伸びしろがありそうな新米ルーキーでしか無かった。


そんな雑魚キャラで戦場に送り出しやがってと思っていると、その2つよりも驚愕の事実をアリスは語りやがった。


ステータスポイント割り振りの話についてである。


女神は転生させる人間のステータスを初期段階で割り振りができるらしいのだ。

女神は転生者Lv1状態のステータスに30ポイントまでなら好きに割り振りを行えることを神様直々に許可されているのだ。


ここまでなら最初の誓約書を見て怒った時の話と同じなのだが、俺も勘違いしてたことをアリスも勘違いしていたのだ。


魅力にポイントを全部割り振りやがったアリス。

攻撃とか防御に割り振れよと思う俺。

そしてLvにポイント割り振らないんだ?と俺の転生後、女神に疑問を投げた神様。




…………………




「Lvにポイント割り振れたんなら他のステータスも全部上がってただろーーー!」


俺はポンコツ女神のアリス、そしてこのポンコツ女神を部下に置いてる神様がとても許せなかった。


Lv1に30加算してLv31になれば、かなりステータスもスキルも変わってくるはずだったのだ。

なのにポンコツアリスは特定のステータス、しかも魅力という戦いに必要のないものにポイント全ツッパしやがったのだ。


それを見た神様は俺の転生終了後にアリスに言ったらしい。

戦場にレベル1の勇者送るなんて鬼畜だね~って。

女神も神様もふざけすぎている。

本当にウレールを救う気があるのだろうか。


頭に来てる俺だったが、今は現実の王様との会話を上手くやらないと即死する未来になるかもと思い、今だけアリスの意見を聞こうと思った。


「……それで俺はどうしたらいいんだ?」


「とりあえず王様に事情を説明すれば何とかなるんじゃないの?あの王様、その辺の融通ゆうずう利きそうじゃない」


「ふーむ」


戦争の最中に現れた勇者がLv1。

それを知ったら果たしてどうなるのだろうか。


俺は打開策すらまともに出せないアホ女神と会話するのに疲れてしまったので、元いた王の間に意識を戻すのであった。


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