第5話 入学とあれこれ

「うーむ。何度きてもデカいな」


と言っても二回目だが。


――時は進んで4月。あれから軍の担当官さんに指示を受けて入学試験を行い、無事軍学校への入学を果たした俺は軍学校の入り口を前にしてそう呟いた。


ちなみに軍学校の本校は国防省が置かれている市ヶ谷にあるのだが、俺たち機士が通うのは機体の整備や稼働実験を行うことや入間市にある空軍基地を使った輸送の関係上、都心部から少し離れた青梅市に分校が作られている。


生徒の数は1学年100人。3年制なので合計300人。

上位10人がAクラス

次の20人がBクラス。

次の30人がCクラスで

ラストの40人がDクラスだ。


戦争が激化している世界で1学年100人しかいないのは大丈夫か? と思われるかもしれないが、ここは魔晶適合率が高い生徒だけが入れる学部なのでこれで今のところ問題ないらしい――もちろん適合率が高い生徒を欲しているので、増えるには越したことがないのだが。


この中で機体を万全に使えるほどに適合率が高いとされるのは、AクラスとBクラスの生徒である。CクラスやDクラスの生徒も使えることは使えるがどうしても性能が落ちるらしい。一応、在学中に成長したと認められた場合、その都度BやAクラスに昇級する制度があるらしいので、入学時にCクラスやDクラスだったとしても落ち込むことはないぞ、うん。


CクラスやDクラスに入れられた生徒さんがたの気持ちはさておくとして。


機体は一度登録したらリセットしない限りはそいつの専用機になる。故に満足に使えない子供のために用意するには貴重過ぎるという理由から、この学校は機士の育成学校ではあるものの、全校生徒分の機体はない。まぁスペース的にも在庫的にも当然の話ではあると思う。


そう言った理由から、軍学校は年10体。つまりAクラスの分だけを用意しているそうだ。


ただし、Aクラスに入ることができた生徒の中には実家が軍関係者だったりする場合がある。というかほとんどがそうらしい。で、自分の子供のために機体を用意している場合があるんだとか。


……お金持ちはいいねぇ。


この場合は余った機体をBクラスの成績優秀者に回すらしい。もちろんBクラスの生徒でも親が機体を用意しているケースもあるので、学校全体でみると大体50体くらいの機体があるんだとか。


ちなみに学校から機体が与えられない生徒が何をするかと言えば、シミュレーターでの訓練と整備などで機体に触れることで魔晶や機体への理解を高めるんだそうだ。


『全く使えない』と『そこそこ使える』は違うからな。


ジ●を貰えるほどの技量はないが、●ールで戦える程度の力はあるのだ。いざというときのことを考えれば基本的な教育をすることは間違っていないと思う。


重要なのはこの中で俺がどのクラスなのかということだが……もちろんAクラスである!


ふふふ。前世の記憶は伊達ではないのだ。


まぁ真面目に考察するのであれば、おそらくだが俺は前世の分と今の分で二人分の適合率があるのだと思われる。さらに前世の記憶があるので筆記試験にも強いときた。これでAクラスに入れなかったら逆に問題だろう。


入試の順位は3位なんだがな!


いや、前世持ちでそこそこ勉強したのに3位ってどうよ? 引っ越しの準備などで忙しい中、妹様が用意してくれた傾向と対策をやりこんで3位って。 もし2位だったら「本当の天才ってのはいるところにはいるんだな~」程度の気持ちで済んだろうが、3位って。


もう、なんと言うか、上に二人もいるって時点で俺の限界が知れた気がする今日この頃である。


「……行くか」


内心凹んではいるものの、そもそも3位という成績は決して悪いものではない。それを卑下していては他の生徒さんに対する嫌がらせになってしまう。そうと考えた俺は、内心で凹んでいることを悟られぬよう。むしろ自信満々に「3位で入学したぞ! すげえだろ!」と胸を張って軍学校の門をくぐることにしたのであった。


―――


(アレが例のやつか)


黒髪黒目で中肉中背。一見すればただの若者に見えなくもないが、しっかり観察してみれば受ける印象はその真逆。鋭い視線は油断なく周囲を観察しているし、その身には内から溢れ出るオーラのようなものを纏っているのがわかる。


(名前は確か川上啓太かわかみけいた、だったか。軍閥や財閥の出身ではないらしいが、アレを見てウチの諜報員が『多少賢しい子供』なんて報告書を上げてきたってのが信じられん。連中は一体全体何を見たんだろうな? いや、もしかして観察されていることに気付いて擬態した?)


そもそも一般家庭で育ったただの子供が軍学校に推薦される時点でおかしい。さらに推薦者は素人や軍閥の威光に従うような軟弱者ではない。常日頃から間近で精鋭中の精鋭を見てきた第二師団の人事担当だ。


それら諸々の事情を考えれば、彼が軍学校に入る前に周囲からちょっかいをかけられるのを嫌ったが為に無能を装ったという荒唐無稽に思える考えも間違っていないように思えてくる。


(まぁ、過ぎたことだからな。諜報員の質の低下に対する問題提起は後でするとして。問題はこれからどうするか、だ)


あの覇気に加え、魔晶との適合率も筆記試験の成績もダントツの1位。無能なわけがない。今回2位の自分や主席となったお嬢さんが彼より上位にされたのは偏に家の威光があったからこそ。


(軍閥の面目? そんなことを考えていたから第三師団は壊滅したんだろうが)


軍学校が軍の組織である以上、上層部の思惑が反映されるのは当然のことではある。だが、それでも今回のように軍学校という教育機関が実より名を取るような真似が常態化しているのはどうかと思わなくもない。


だが表立って文句は言えない。


(俺やお嬢さんが負けたから悪いって言われたらそれまでだからな)


そう。なにせ軍学校が小細工をしなくてはならなかったのは、彼らが一般家庭出身の子供に負けたせいなのだから。


次席の彼も主席となった少女も軍閥の出である。当然子供のころから軍人になるよう教育されていた。軍学校への入学だって元から決まっていたことなので、必要な勉強はしっかりとこなしてきたという自負もある。


それだけ準備を重ねてきたにも拘わらず負けた。それも12月に軍へ入隊するために試験を受けに行った際、人事担当官から『軍学校に入学しないか?』と誘われ、急遽入学試験を受けることになった一般人に、だ。


これでは面目も何もあったものではない。テコ入れされるのも当然のことだ。


(文句を言いたければ結果を出してからにしろってな。そう割り切るしかない)


屈辱ではある。だがそれは自己の努力が足りなかったが故の自業自得だ。受け入れるしかない。


そう割り切ったなら、次に浮かんでくるのは実質的な主席である彼への態度だ。


(切磋琢磨する友人と見るか。引き摺り下ろす競争相手と見るか。はたまた無関心を貫くか)


当然最後の無関心は除外する。奇貨は手元に置くか排除するべきであって放置することこそが一番の悪手となるからだ。


切磋琢磨する友人になれればいい。だが彼を推薦したのは第二師団の人事担当。つまり今後彼は第二師団の紐付きとなる。入学前に接触できていたのであればまだなんとかなったかもしれないが、今更スカウトをしたところで無駄だろう。


自分の実家が所属する第七師団と第二師団の仲は決して悪くない。悪くはないが、良好とも言えない、なんとも曖昧な関係だ。それを考えれば勝手に動いて家に迷惑をかけるわけにもいかない。


(待てよ? もしかしたら例の救世主計画の被験者という可能性もあるのか。もしそうだとしたら……よし。友好関係を結ぶにせよ引き摺り下ろすにしろ、まずは家の許可を取ってからだな。それまではどっちに転んでも良いように適度な距離を保つとしよう)


――学校の成績に家なんて関係ない。そう嘯きつつも家のことを第一に考えてしまうことに多少の自己嫌悪の気持ちを抱きつつ、次席入学者こと藤田一成かずなりは軍学校の門をくぐるのであった。


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