極東救世主伝説

仏ょも

1章 

第1話 ガイダンス

こんにちは。新しい救世主さん。


我々はこれから機士として戦場に出ることになるアナタに必要な情報をピックアップしています。


以下は知識がない方でも現状を理解することができるようにと作成された簡単な年表です。


一般常識ですので、知っているという方は流し読みでも結構ですが、知らないという方は必ず目を通してください。一般常識ですので。


―――


年表


1943年。第二次世界大戦中。形勢が不利となりつつあった欧州のとある国の国家元首が、自国と敵国の兵士を生贄とした悪魔召喚の儀式を決行。最初の悪魔の召喚に成功する。


1943年。召喚された悪魔は生贄にされた人間の中で生き残っていた人間に己の因子を与え、眷属とした。


これを魔族と呼ぶ。また、悪魔や魔族によって使役される異形の生物を魔物と呼ぶ。


1943年。魔族と共に大量の人間を殺した悪魔は、それを贄として新たな悪魔を召喚。召喚された悪魔は最初に悪魔を召喚した国家元首を殺害し、悪魔は契約の軛から解き放たれた。

一連の事件による混乱によって人類同士の争いが一時停止。第二次世界大戦は勝者のないまま終戦を迎える。


1944年。終戦を受けて日本軍が大陸から撤退。


1945年。満州が李氏朝鮮などと共に中華民国とロシア共和国――ソ連の構成国――の支援を受け合併し日本からの独立を宣言。朝鮮半島と大陸北東部を領土とする朝鮮共和国が誕生する。


1945年。欧州に於いて、召喚された悪魔がさらにたくさんの人間を殺し、別の悪魔を召喚するという負の連鎖が発生。最終的に召喚された悪魔は40体を超えるとされる。

そのうちおよそ半数が南北アメリカ大陸に渡ったため、アメリカ大陸でも悪魔と人間の戦争が勃発することになる。


1946年。悪魔の攻撃にさらされて苦難に陥っていた欧州の国家と、散発的にではあるが悪魔の攻撃を受けていた中東の国家やアフリカの国家が軍事同盟を締結。


195×年。悪魔同士の勢力争いに敗れた悪魔■■■■が人間側に寝返り、各種技術提供を行う。魔晶の研究と機体の開発が開始される。人類による反攻作戦である第一次救世主計画が産声をあげた。


195×年。初代となる機体が完成する。欧州での呼び名はカマエル。救世主計画によって特殊な因子を持たされた子供たちが機体の操者となって戦場を駆けるようになる。


195×年。欧州戦線が拮抗する中。魔族や魔物を葬ることができる機体の性能に目を付けた中華民国が対人間用の機体を開発。近隣諸国を手中に収めるための侵略戦争を開始。


196×年。日本に於いて対機体用の機体である国綱が開発され、中華民国から侵略を受けていた各国に輸出される。


196×年。諸国から反撃を受けた上、国内での暴動が起こり中華民国が解体される。雍・益・荊・冀・揚・幽の6つの州による連邦議会制となり、中華人民連邦へとその名を変える。


196×年。中華人民連邦が欧州から流れてきた複数の悪魔による侵攻を受ける。6つある州のうち西北・西南・中南に分類されていた、雍・益・荊の3州を制圧される。


197×年。東南アジアにも悪魔が侵攻。インドネシア、フィリピン、ティモール、台湾、ブルネイ、日本といった島国を除くほぼ全域が戦場となる。


197×年。インドネシアやフィリピンなどの島国でも悪魔が確認されるようになる。


198×年。台湾や日本でも悪魔が確認されるようになる。


199×年。オーストラリアとニュージーランドでも悪魔が確認される。これにより文字通り地球はその全ての地で人類と悪魔が争う地獄と化した。


199×年。日本に於いて共生派が反救世主計画を実行に移そうとするも、国防軍の勇士諸君の奮闘によって反救世主計画は頓挫。前記の反救世主計画によって犠牲にされそうになった被害者の少年が国防軍への協力を打診したため、日本で第二次救世主計画が発動。


200×年。大陸での戦に於いて中華人民連邦が大敗。華北地域と東北地域を失う。


201×年。日本で最初の人造魔晶が開発される。


202×年。人造魔晶に適合した最初の機体が開発される。名前は叢雲である。


202×年。第一次反抗作戦発動。第二次救世主計画の適合者と叢雲を含めた日本軍が朝鮮半島に出兵。大勝利を収めるも、戦線の維持と情報収集を目的とする日本と領土の奪還を求める現地勢の意見が衝突し、日本軍は半島からの撤退を決める。


202×年。朝鮮共和国が悪魔の軍勢によって制圧される。


203×年。対馬や九州・沖縄地方での戦闘が本格化するも、その都度国防軍によって撃退される。


203×年。第二次反攻作戦のために東南アジア諸国に叢雲とその改修機である草薙を輸出するも、乗り手が不足していたために満足な稼働ができず、戦線を維持することはできたものの、戦略目的を達成することができなかったため、作戦は失敗に終わる。


203×年。作戦失敗の反省を活かすため、人造魔晶の適合者を増やす第三次救世主計画が発案、承認される。


203×年。地球上の人口が5億を割った。人が死に過ぎたことや食糧事情の関係で(食糧がなければ魔族も死ぬし、魔族や人間が全滅するとそれを食料にしている悪魔も死んでしまうため)大規模な戦争が起こりにくくなる。


204×年。およそ10年にわたる小康状態の中で力を蓄えた東南アジア諸国連合による第三次反攻作戦が開始。台湾、フィリピンの大部分の解放に成功。


204×年。タイ・ベトナム・ミャンマーでの戦闘に勝利。人類の活動領域を広げることに成功。


2053年。度重なる戦勝を受けて戦線の拡張を主張していた陸軍の牟呂口大将が暴走。指揮下の第三師団がインパールに於いて歴史的な敗北を喫する。


2054年。インパール戦に勝利した悪魔と魔族による反攻作戦が開始され、タイやミャンマーが戦場となる。


2054年。東南アジア諸国での戦闘の激化と朝鮮半島から侵攻してくる悪魔や魔族に対応するため軍は大幅な増員を決定。


2055年12月。今に至る。


―――


年表は覚えましたか? 既読の分はいつでも再閲覧できますので、忘れそうになったら再確認してください。


続いて第二次救世主計画についての概要を纏めたものを閲覧してください。これも一般常識ですので、知らないと恥をかきます。アナタ個人が恥をかくのは本人の勝手ですが、所属する人間がバカだと思われては我々が困りますので、かならず閲覧してください。


―――


第二次救世主計画とその概要。


数十年前のことです。とあるところに、両親が共生派とよばれる人たちの間に生まれた子供がいました。


その両親はとある儀式に於いて知恵のある魔物。即ち悪魔と交渉するために6歳の子供を生贄とすることを決めました。


生贄に選ばれた子供は、魔物が死んだときに落とすとされる石、すなわち魔晶と呼ばれる特殊な石を植え付けられてしまいました。


魔晶に取り込まれた子供が魔物になったら儀式は成功となっていたそうです。


しかし、両親やその仲間たちは儀式の最中に共生派と呼ばれる人たちと敵対する組織の人たちに踏み込まれてしまい、魔晶に取り込まれまいと必死に抵抗している子供を残して死んでしまいました。


儀式に使われて苦しんでいる子供は、踏み込んできた人たちに保護されました。


とある事情から強靭な生命力を持っていた子供は、通常であれば肉体も精神も魔晶に食べられて魔物になるところでしたが、逆に魔晶を取り込んでしまいました。


これに驚いたのが、儀式の場に踏み込んで子供を救助した人たちの上司。つまり国防軍の上層部です。


子供は魔晶を得たことで特殊な力を使えるようになりました。そのため彼は、国家、いいえ、人類の未来のために、国防軍の協力者として各種実験に積極的に協力してくれることとなりました。


それから十数年。自発的に快く実験に協力してくれた件の子供から得た様々なデータを流用した結果、国防軍は比較的安全な魔晶を開発することに成功しました。


これが第二次救世主計画における最大の成果となります。


今ではこの人造魔晶に対応できた人たちが、国防の主力として活躍しています。


魔晶適合者の皆さんは、オリジナルと呼ばれている件の子供に対する感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。


さて、国防軍によって開発された人造魔晶の効果は大きく分けて二つあります。


一つは限定的なアイテムボックスです。


理屈は不明ですが、魔晶はリンクしている機体と機体が装備しているモノを取り出すことができます。

機体に箱を背負わせ、その中に食糧や水とかを入れておけば補給が簡単になりますので、是非お試し下さい。特に魔力が篭った水は機体の燃料にもなるので重宝されますよ。


ただし、魔晶の中に入れた時点で食糧や水には魔晶の魔力が篭ってしまいますので、一度取り込んだモノは本人しか飲食できませんし、燃料としても他の機体では拒絶反応を示すので自分以外の機体には使うことはできません。あくまで本人の継戦能力が高まるだけですのでご注意下さい。


加えて注意事項です。疑似的なアイテムボックスに重量や容量の制限はありませんが、物品を収納している際に使用者に重量が加算されます。

具体的には収納している内容物の総重量を1/1000にした分の重さが加算されます。10トンであれば10キログラムです。あまり重いものを持つとその分疲労することになりますので、魔晶へ物品を収納する際は重量を考えて収納しましょう。


もう一つは機体のデバイスキーとなることです。


基本的に、対大型魔物用の決戦兵器である機体には多くの魔物の体組織が使用されています。

しかし造られた機体は言ってしまえば死体の詰め合わせなので、それを動かすために搭乗者が宿している魔晶が必要となります。


ちなみに搭乗者がいなくても魔晶があれば機体は動きますが、その場合は壊れるまでめちゃくちゃに動き回るだけのモノになってしまいます。死体に燃料を与えたところでそこに明確な意思がないのですから、当たり前といえば当たり前の話ですね。


ですがこれは他者からの妨害工作として考えれば非常に優秀な手段となります。そのため、機体には自分やメンテナンス要員以外の存在を近付かせないようにしましょう。


以上が魔晶とそれを利用した機体に関する基礎的な説明となります。


これ以上の情報はそれぞれの所属する組織の責任者から受けてください。


――最後になりますが、無事魔晶に適合し、人類の救世主の一人となったアナタが良い戦に巡り合えることを心からお祈り申し上げます。

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