冷コー、玲子の、純喫茶物語

第2話 冷コーを巡る微妙な距離感

午後3時が近づくと、加藤はいつものように玲子さんのためにアイスコーヒーの準備を始める。彼女のことをもっと知りたいという気持ちが日に日に強くなっていた。彼女がこの純喫茶に足を運ぶ理由、読んでいる本の種類、そして何より「冷コー」という言葉を選ぶ彼女の心の内。それらが加藤の好奇心を刺激する。

ある日、彼女がカウンターに座ると、加藤は少し勇気を出して尋ねた。「玲子さん、いつものアイスコーヒーはどうされますか？」

「はい、お願いします。この時間の一杯が私の一日の小さな楽しみなんですよ。」彼女は本を閉じ、加藤に向かって笑顔を浮かべる。

その笑顔に心を動かされた加藤は、今日はいつもと何かを変えてみたいと思った。彼は特別に選んだ豆でアイスコーヒーを淹れ、玲子さんのためだけの特別な一杯を作る。彼女に差し出したとき、彼女の目が輝いた。

「これは…いつもと違う？」玲子さんが驚いた声で尋ねる。

「はい、少し豆を変えてみました。玲子さんのための特別な冷コーです。」加藤は照れくさそうに答えた。

彼女はゆっくりとアイスコーヒーを味わい始める。一口飲んだ後、彼女の表情がぱっと明るくなった。「美味しいです。こんなに心が動くアイスコーヒーは初めてかもしれません。ありがとうございます。」

その日から、二人の間には新たな会話が生まれ始めた。玲子さんは自分の趣味や、なぜこの純喫茶を愛しているのかを話してくれるようになり、加藤もまた、純喫茶の歴史や、自分がこの仕事を始めた理由を彼女と共有するようになる。

二人の距離感は徐々に縮まり、冷コーを巡る微妙なやり取りが、彼らの日常に小さな変化をもたらした。純喫茶の静かな午後が、少しずつ彩りを増していく。加藤は知っていた。玲子さんとの出会いが、彼の日々に新たな意味をもたらしていることを。