第19話 歳月は夜を夢に変えるみたいだから 3

 「ちゃうねん」


 「そうか」


 「マジでちゃうねん。これには浅い訳があるんですねん」


 「とりあえず、お前がリアルタイムで俺をおちょくってるのはわかった」


 涅槃先輩に激写されてから、2日後の放課後。


 宮古に今日は部活に顔を出すようにと命令され(正確には来ないとバラすと脅されて)、わざわざ連絡してまで部活に参加させようということに嫌な予感しか感じなかったが、背に腹は変えられないので部室に顔を出すと、涅槃先輩が同級生の軽音楽部生に笑顔で詰め寄っているところに遭遇した。


 人って怒ってる時も笑顔になる時あるよね?


 「よっす。ちゃんときたね、感心感心」


 その光景に少し固まっていると、ギターをいじっていた先に部室に顔を出していた宮古に声をかけられた。


 「実質強制だろ…。涅槃先輩と唐木田どうしたの?」


 涅槃先輩と、軽音部の同級生、唐木田アイジに訝しげな視線を向けながら俺は宮古の前の空いた席に腰掛けた。


 唐木田アイジは肩にかかるくらいのセミロングのボブカットの、付き合いの浅い俺の感想はお調子者のピエロみたいな女子だ。

 

 有村と宮古とは違ったタイプで、ルックスも悪くないが、それが理由というより陽気で明るいのでクラスの中心的存在だからこそ、カースト上位に所属している感じの人種だ。

 

 どっちにしても、本来は俺が学校生活でつるむ人種ではないが、不幸な偶然により軽音部に所属したことにより、親交を持つようになった。


 楽器はやっておらず、担当楽器は楽器というかボーカル。プロのライブに実際に行ったことはないのだが、プロってこんくらい上手いんだろうなって思ったボーカリストで、はっきり言って部室で最初に歌声を聴いた時は呆気にとられ口を開けて固まってしまったくらいうまいかった。


 その唐木田が件の涅槃先輩と何やら揉めているみたいなのだが、なんなのだろう?


 「ああ、アイちゃんは涅槃先輩の説得中だよ?」


 「説得?」


 「宮古、待て。唐木田のやってることを説得という気か? 脅迫の間違いだろう?」


 涅槃先輩が宮古との会話に割り込んできてそう言った。へ、脅迫?


 「脅迫とは人聞きの悪いやん。説得材料を用意した説得でゲス」


 「口調と内容でふざけてんのわかるけど、叩くぞ、おい」


 「涅槃先輩。そんなことしたら、私が撮影するから脅迫の道具増えますよ?」


 「宮古、てめえ…。ああ、もう! やればいいんだろ、やれば! 叩くよ! ライブでドラム!」


 頭を片手でワシワシ掻きながら、荒れた口調で涅槃先輩がそう言った。


 涅槃先輩がライブでドラムを叩く?


 そう知った瞬間、俺は嫌な予感がして恐る恐る宮古に向ける。


 するとそこには、底意地の悪いのがたっぷり透けて見える笑顔を浮かべた女がいた。


 あ、これあかんやつだ…。


 俺はそう思って現実逃避して逃げ出したくなった。

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