第18話 歳月は夜を夢に変えるみたいだから 2

  幸村葉月先輩は男性でメガネをかけた優等生みたいなルックスをしている。


 スラっとしてピシッとした細身で、端正な顔をしていて初対面の印象は、執事服とか着ていたら腐女子が喜びそうだな、だった。


 そんな先輩のあだ名は涅槃さん。担当楽器はドラム。初対面の時、軽音部の部室で引き合わされた時、宮古はそう紹介した。


 なぜあだ名が涅槃さんなんだと、不思議そうに聞くとそれは至極単純な理由だった。


 シンプルに、洋楽のロックジャンル、グランジロックの伝説の3ピースバンド、nirvanaの大ファンだから。


 nirvanaの意味は仏教用語の涅槃である。だから涅槃さん。


 「ああ、犬ライダーのバンドですね? 本家本元の」


 「…お前、⚪︎リトのファンか?」


 「…ちょっと、藤原くん、こっち来ようね〜」


 初対面で先輩とそんなやりとりをしていたら、宮古に教室の隅においでおいでされて叱られた。


 nirvanaファンの間で、犬ライダーは爆弾だと。


 なんでも、⚪︎ico動で話題になった犬ライダー、⚪︎エロとnirvanaファンの間で争いに火種になりかねないから、気をつけろ、と。


 なんか、V系は聴くが別にロックオタクではない俺にはわからないが、因縁の動画らしい。


 センシティブなところに触れてしまったのだろうか?


 涅槃先輩は、少し眉を上げた感じは『犬ライダー』を話題になった時にあったが、今は普通の表情に戻り、少しずり落ちたメガネの位置を元に戻していた。


 …なんとなく、見た目通り優等生で逆鱗を撫でたが大人の対応で許してもらえたのだろうか。


 少し、気難しい感じはするがいい人なのかもしれない。


 「まあ、なんだ、俺、用事あるから帰るから。藤原京くんね? 今後よろしく。

 それじゃあ、宮古、お前が連れてきたんだし、お前が面倒見といてくれ、じゃあな」


 そんな感じで別れたのが初対面。そして、休日に街角の喫煙所でタバコ吸ってるのを目撃したのが2回目の出会い…。


 「犬ライダーって言ってたから⚪︎エロファンっぽいから、V系好きかと思っていたけど、お前休日そんな感じなんだな」


 現在、俺、藤原京は喫煙所で、先輩のタバコの副流煙を、顔面に吹きかけられて、V系ファッション姿で絶賛吸引中。


 縮こまって、吸わせていただいております。


 こえー、この人、真面目そうなルックスしといて本性インテリヤンキーかなんかですか?


 俺の高校ライフ、涅槃先輩の舎弟でパシリ確定ですかね? たすけて…。


 そんな感じで、すでに有村と宮古のおかげで暗くなりかかっていた青春高校ライフが、暗くなるどころか爆散しそうな展開なんですが…。


 厄年だっけ? 今年。


 そんな感じのことを思っていると、ふと何かを思いついた感じでタバコを灰皿に擦り付け捨てた先輩がスマートフォンを手に取り、こちらにかざしてきた。


 why? パシャリ。


 一言のことわりもなく、先輩が俺の姿を激写した。え、ちょっと待って。


 「お前、V系好きなの高校で隠してるだろ? バラしたら、今撮った写真晒すからな」


 激写したV系ファッションの俺の写った写真のをこちらに見せてそういうと、涅槃先輩はかったるそうにしながら、喫煙所に俺を残して立ち去った。


 残されたのは、V系ファッション姿の俺に無遠慮な視線を向ける喫煙者たち。


 「え、俺、マジで終わった…?」


 呆けながら、そう一人、俺は喫煙所で立ち尽くしていた。


(注釈) 人気V系バンドのボーカルがソロのライブでnirvanaの代表曲をカバー演奏している動画が動画共有サイトである意味エンジョ…、いや、プチバズし、空耳から『犬ライダー』と言われ双方のファンの間で昔ネットの片隅で話題になったことがあってその話題をネタにしています。

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