第15話 昔はよかったなんて言わないで 5

 「なんで、俺バンド一緒に組むことなってんだ?」

 

 放課後、宮古の提案で楽器店に俺の楽器を探しに、駅近くのビルの地下にある楽器チェーン店で俺は項垂れながら、宮古にそうつぶやいた。

 

 たまたまバイトが休みだった有村も同席しているが、有村は自分の扱う楽器のシンセサイザーコーナーで、悦に浸りながら⚪︎ンダムのOPテーマのイントロとかを弾いてテンションを上げたりとか自由にしている。

 

 うん、接してわかったが、有村は優等生の仮面を被った自由人だ。奔放すぎるんですけど。

 

 俺の呟きに、販売しているベースを繁々と眺めていた宮古が不思議そうに

振り返った。

 

 手にはスマホを持ち、俺が反応していたV系ミュージシャンモデルのベースを画面に表示させている。どうやら、俺が興味を持った楽器を探してくれているらしい。

 

 「あれ、蓮香から聞いてないの?」

 

 「何も聞いてない」

 

 「ああ、昼休み入る前に蓮香から聞いてると思ってたよ。SNS見たよ、それが理由」

 

 その言葉を聞いてげんなりする。俺のオタク趣味が理由とか嫌な予感しかしないんですが。

 

 「コスプレのつもりないんだろうけどね。藤原の格好、某有名バンドアニメのキャラのコスプレみたいなんだわ」

 

 「それって、あれか? 普段はいけてない格好の主人公がバンドやってて、ライブの時だけ変身してスターになって、人生を切り開いてくやつ」

 

 「そう、それ! 知ってんだったら、格好似てるのわかるよね。挙句、普段イケてない格好してるのまで一緒じゃん。ちょっと、それが私と蓮香の萌えを刺激したのだよ」

 

 「別に俺、バンドやって人生切り開く気ないんですけど…」

 

 正直V系バンドに憧れて、自分も同じようにV系バンドを組んで活動してみたい、とか思ったことはある。

 

 でも、カラオケの採点マシーンで74点が最高点で音楽の授業の成績も5段階で3だった俺には才能ないと自己判断しすぐ諦めた。

 

 だから、将来はファッション関係の仕事を志望する気だった。

 

 「まあ、現実と漫画ごっちゃにはしないよねー。でもさ、オタクな私と蓮香にしたら、好きな作品のキャラみたいなやつが身近にいたわけでね。そんなやつと一緒にコスプレしてライブしたいとか思ったわけですよ」

 

 「はあ、そんなもんか」

 

 理由になってるようななってないような。

 

 …ん? というか、待ってください。今、爆弾発言しませんでした?

 

 のんびりと楽器を探している宮古の発言に、俺の青春ルートは魔境ルートへと無理やり繋げられかかっていることに、俺はようやく気がついた。

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