第14話 昔はよかったなんて言わないで 4

 画像の一枚で、俺、藤原京は街角の雑踏で腰に手を当て、虚空を見つめている。

 

 髪にはショッキングピンクのエクステをつけ、ワックスを使い、ふんわりと無造作ヘアにセットしている。

 

 格好は黒のハイネックジャケットにレザーパンツ、そして、白いラバーソール。

 

 自分の美学に酔ってるの丸出しの写真である。

 

 でも、それをSNSでいいね! をつけている人がそれなりにいるという事実がある。

 

 普段は隠している自分が他人に承認された証のいいね! である。

 

 それは本当の自分を肯定されたようで、たまらなく嬉しい。

 

 だからである。自分自身でも、ちょっとナルシストっぽいかな、とか思わないわけではないんだけど。

 

 俺はそう言った一人ファッションショー写真をSNSで投稿しまくっていた。

 

 当然、学校の知り合いには全く知らせず隠しながら。

 

 どちらにしろ、学校ではぼっち気味で相互フォローしている友人は全然いなかったので、今までは全く問題が無かったワケなんだけど。

 

 しかし、だから俺は失念していた。SNSのシステムを。


 ブロック設定してなかったら、フォローしてる人には俺のアカウントの投稿が表示されまくるということを。

 

 だから、見られまくったというわけである。一人ファッションショーを。

 

 対して親しくないクラスメイトのリア充に。

 

 もう黒歴史爆誕である。死にたい…。


 昼休み、そう思い黄昏ながら、クラスの窓際の席から窓の外の青空を、俺は眺めたいた。

 

 空は雲ひとつない快晴で、梅雨明けの太陽は、もう真夏かと勘違いしそうなくらいギラギラと輝いている。

 

 空を眺めて現実逃避をしている。その原因は、SNSの一人ファッションショーの写真群を有村蓮香に見られたのももちろんある。だが、最大の原因は他にも今まさに現在進行形で存在した。

 

 「でさ、ミュージシャンモデルの中古のベース、この楽器店のアプリで見た感じ在庫あるみたいなんだよね」

 

 「はあ、藤原くん、楽器ベースにするんですか? 渋いですね。コーラスするんですか? ハヤークー? onigokko?」

 

 現実逃避している最大の原因。

 

 それは非リア充の俺が、学年リア充の貴族か王族かっていうカースト最上位階層の二人、有村蓮香と宮古桐子と一緒に机を囲んで昼食を食べているというイベントが発生していることだった。

 

 二人は俺の気も知らないで、親しげに話しかけてくるが、もうそれが辛い。

 

 だって、もうクラス中の視線が痛いんですけど。男子の一部が、めっちゃ殺意感じる視線向けてくるんですけど。

 

 というか、V系ミュージシャンモデルの楽器のこと言ったり、V系ミュージシャンの曲のコーラス歌詞言ったり、俺の秘密隠してくれる気あるんですかお二人さん?

 

 昼休みに入ると同時に、有村が一緒に昼食を食べようと、いきなり話しかけてきて、唖然としていたら、他クラスの宮古まで合流してきて、なし崩し的に一緒に昼食を食べることになってしまった。

 

 リア充ってこんな感じで気軽に距離詰めてくるの? 非リア充には理解できない感覚だ。

 

 友達多いリア充はこんな感じだから友達多いのか? とりあえず、今の置かれてる状況がキャパ超えてます。助けて…。

 

 「あの、ちょっといいかな…?」

 

 そんな感じでテンパっていたら、一人のクラスメイトが話しかけてきた。確か、有村と普段グループを組んでいるリア充の女子で、名前は和山 凛(ワヤマ リン)。


 陸上部の短距離走の選手で、全国大会には行っていないが、地区予選で入賞したというスポーツ小町である。

 

 そんな和山はおずおずと、だが意を決した様子で話しかけてきた。そりゃそうだ。俺はクラス内ではモブのボッチ的ポジションの男である。早い話が、イケてない。

 

 それがいきなり、学校内有数のイケてるリア充と仲良くし始めたのである。それまで、普段グループを組み仲良くしていた和山からしたら、意味不明で困惑する状況だろう。

 

 他人事だったら、俺も意味不明で凝視していたかもしれない。話しかけたきた和山に宮古が視線を向ける。

 

 その視線は無感動で、淡白な感情しか読むことができない。地味にプレッシャーを感じる視線である。

 

 その視線に、和山は軽く挫けそうになったのかたじろいだ。だが、すぐさま意を結したのか言葉を繋いだ。

 

 「急に藤原くんと仲良くし始めたけど、二人とも何かあったのかな? 唐突すぎて意味不明なんだけど…」

 

 よく言った! 遠目に俺たちを観察していたクラスメイトから喝采が上がった。そんな反応に、普段和山とグループを組んでいる有村が困ったように頬をかきながら、言葉をつむぐ。有村はみんなの反応がちょっとわからないらしい。戸惑っている。

 

 「凛に前言った通り、同じ部活に入ったから仲良くしようとしているだけだよ。同じ部活のクラスメイトと仲良くするのって、そんなに変かな?」

 

 同意を求めるように、宮古に視線を向ける。その視線に宮古は軽く頷く。そして、俺にとって本日最大の爆弾発言を、まるでなんでもないことのように投下した。

 

 「うん、蓮香言う通り。一緒の部活の上にバンド組むことになったから、親睦深めようとしてんだよ」

 

 「そうなんだー。バンドを…」

 

 そんな感じで宮古と和山はなんでもないような感じで話しているが、俺は呆気に取られて、思わず口をあんぐりと開けそうになった。


 一緒にバンド組むとか聞いてないんですけどーっ!!!


 心の中で、そう俺は絶叫した。

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