第5話 胸に空をつめて 4

 例えるなら、ライブで調子に乗ってヘドバン(頭を音楽に合わせてぶんぶん振り乱すこと)しすぎて、首を痛めた状態で文化祭でダンスを踊らされるような、最悪な気分。

 

 例えがよくわからない? うん、言ってる俺もよくわからない。

 

 まあ、なんとなく死刑執行囚の気分と思ってください。

 

 サザエさん症候群を鬱屈とした表情で乗り越えて学校へ通う、月曜日の学徒の一群。

 

 その中で、俺、藤原京は緩慢な足取りで学校への通学の歩を進めていた。

 

 高校の最寄駅から、学校へは住宅街の平坦な道を数百メートルほどの道のり。

 

 人によっては同級生と談笑しながら、はたまたスマホをいじり、日課のログインボーナスを回収しながら、またはワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながらなど、各自学校へゆっくりと向かっている。

 

 俺もそんな音楽を聴きながら学校へ向かう学生の一人なのだが、耳元から流れるV系の担当したファンタジーアニメの主題歌のノリノリなリズムとはうって変わって、


 足取りは自然と気分通り重くなっている。

 

 それは昨日の休日にあったことが関係している。

 

 それは、バレたから。

 

 スクールカースト下位の俺の隠していたオタク趣味、V系趣味がバレたからだ。

 

 よりにもよって、クラス内スクールカースト最上位階層の住人、つまりリア充、有村蓮香に。


 有村蓮香はたいていのラブコメ漫画に登場する類のキャラクターみたいなやつだ。

 

 漫画みたい。学校生活で、クラスメイトとして学校内で同じ時間を共有し、そう思った人間、それが有村蓮香だ。

 

 まず、ルックス。クラス内でダントツの一位。美人というよりも可愛いと言う表現の方が似合うルックスだが、そのルックスにより、わざわざ他クラスや他学年の生徒が廊下から様子を伺うとか漫画みたいなことを、俺は人生で初めてされているやつを目撃した。

 

 さらに、スタイルも悪くなく、休み時間に耳に飛び込んできたクラスメイトの雑談評では、モデルができそうな高身長が、かえって釣り合う男が限られてマイナスとか、わざわざ欠点探ししてんのか、とか思うようなことを言われていた。

 

 そして、勉学。学年順位トップ20位以内の常連である。賢い。そして、性格は学級委員長タイプで、真面目でいい人。コミニケーション能力も高く、嫉妬の逆恨みも全然されていない完璧超人かコイツみたいな感じである。まじ漫画の世界から転移でもしてきたのだろうか?

 

 普段はやぼったい髪型で教室の片隅で地味に目立たないように、カースト底辺の分際をわきまえて静かに暮らしている俺にはクラスメイトなのに、全く縁のない人種である。

 

 そして、そのカースト最上位の殿上人に、俺の秘密がバレてしまった。

 

 波風立てないように、自分を押し殺して平和に過ごしていたのに。

 

 「とりあえず、有村の出方しだいか…」

 

 直接関わることは少なかったが、クラスメイトとして持つ印象から、有村蓮香が俺の秘密を言いふらすことはないかもしれない。

 

 でも、そうじゃない可能性もあるわけで…。

 

 どうしたもんか…。

 

 俺はため息をつきながら、重い足取りで学校へ向かった

 

 天気は快晴。天気と気分の差が酷すぎるが、空は青く、澄んでいた。

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