第4話 胸に空をつめて 3

 学校などでは特にそうだが、この日本って国の国民性は協調、調和を是としている。

 

 みんなが好きなものは、みんなが好きであるべき。だから、みんなが嫌いなものは嫌いであるべき。

 

 早い話が同調圧力ってやつだ。

 

 何やら昨今は違った個性の許容とか、価値観の多様性とか色々とくだを巻かれているが、現実はそうではない。

 

 この国は異端なものに、そんなに許容的ではない。

 

 特に、同じくらいの学力の奴らが篩にかけられて集められている高校って場は特にそれが顕著だ。

 

 同世代全員がそうではないと、もちろんわかっているのだが、自分の学力適正で選んだ上鷹沢第一高校では、俺は自分らしいスクールライフを送るのは難しい。

 

 聴く音楽は流行りが大事で、個人の嗜好や好みの自由なんて、あまり認めてもらえない。

 

 ファッションもそうだし、それはさまざまな嗜好まで及ぶ。

 

 だから、音楽性もファッション性も流行りではなく、今の時流とは異端のV系好きの俺にとっては、学校は息苦しくて仕方がない。

 

 学校で、俺は自分を基本的には殺して、やぼったいスクールカースト下位の一般人として静かな学校生活を送っている。

 

 もちろん本音では、好きな格好を校則の許す範囲でし、好きな音楽を隠さずに聴き、青春ってやつを謳歌してみたい。

 

 だが、リアルはそんなに甘くない。

 

 本当の自分を曝け出したら、スクールカースト下位どころか最下位に墜落してしまい、鬱系歌詞丸出しの精神状態に陥ってしまいそうだ。

 

 ちなみに、V系バンドの一部は歌詞もシロップ16gとかart-schoolとかネットで日本三大鬱バンドとか呼ばれるバンドよりも鬱まみれな歌詞である。

 

 …嗜好を曝け出して、鬱屈とした青春を送ったのかもしれない。

 

 別にそういった曲を聴かないわけじゃないけど、共感しまくるメンヘラには、まだなりたくない。

 

 V系好きだって、少女漫画や部活動系スポーツ漫画みたいなキラキラした青春を送ってみたいのである。

 

 まあ、そんな感じで自分を押し殺しているけど、全くキラキラした青春が訪れる気配がない。

 

 うーん、アキバオタク以外のオタクも青春を謳歌するのは難しいものである。

 

 そんなことを考えながら、歩いていると某有名ハンバーガーチェーン店の看板が視界に飛び込んできた。

 

 先ほどの、すれ違いざまの心のざわめきはもう収まっているが、一服入れることも兼ねて、コーヒーとパイで一休みするか。そう思いそれなりに客で溢れかえり繁盛している店に入る。

 

 ちょうど良いタイミングだったのか、レジにはあまり人が並んでいなかったのでスマホをいじりながら並び待つ。アプリクーポンでも出てないっけ?

 

 「次のお待ちのお客様、ご注文どうぞー」

 

 「はい」

 

 のんびりしたレジ店員の声に促され、カウンターに立つ。


 きっかけは、そんな感じで深い意図もなく、偶然の産物。

 

 でも、確実に第一歩はこの瞬間だった。

 

 その一歩は破滅ではなく、前進のための破壊の一歩。

 

 壁を破壊し、広々とした世界へ歩み出すための第一歩。

 

 まあ、そんなこと、自分自身ではわかっていなかったんだけど。


 「あれ、藤…原…くん?」

 

 「へ?」

 

 俺、藤原京は某有名ハンバーガーチェーン店のレジで間の抜けた声をあげた。

 

 何故ならば、レジ店員が、たまたま学校のクラスメイト、有村蓮香(アリムラレンカ)だったから。そして…。

 

 「何その格好…?」

 

 学校関係者に隠し通していた、V系ファッション姿を見られたからだ。


 はい、俺の青春終わったー。俺は頭を抱えたうずくまった。

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