第3話 胸に空をつめて 2
俺、藤原京は街中の雑踏を、普段とは違い胸を軽く張り、風を切って歩く。
すれ違いざまに、ボソボソと噂されている。
あの人かっこよくない? とか。
…まあ、願望妄想で嘲笑われている可能性もあるが。
でもその可能性が事実だとしても気にしない。
だって、今、自分で自分をかっこいいい。そう、バイト代を注ぎ込み、近場に売っていないブランドの服を通販で買い集めコーディネート。
某有名V系界のゴッドファーザーみたいなシンガーのデザインした服を売ってるブランドの服で、代官山とかで売っていたらしい服だ。
さらに、そのシンガーがアーティスト写真で昔履いていたコンバーススニーカー。それをDIYで軽く魔改造。
靴だけでもない。ショルダーバックもピンバッチやステッカーを貼りデコレーション。
そして、普段は長めでもっさりしているように観られている髪もいい香りのするワックスでセット。そして、軽くショッキングピンクのエクステをつけて、バリバリに決めている。
気分はまさに、国立競技場で大歓声を浴び、楽しげに笑う、某有名国際的バンドのベーシスト。
夢中デー、ハーヤクー。である。
…うん、こう思ってること喋ったら、ギャルにこいつルナティックナルシスト、略してルナシーだ、キメェ。とか嘲笑われそうである。
別にルナシーディスってるんじゃないけどね。
カラオケに行ったら、shineとか熱唱するから。
まあ、とりあえず、そんな感じで俺は普段の学校生活では満たせない欲求を満たすために一人カッコつけて街角を散策中である。
今はカッコつけていきがってるシャバ増丸出しの俺だが、普段の学校生活ではそんなことはない。
まず、俺は一応校則を守るので、今しているような軽いメイクもできない。改造バッグもエクステも無理。
休日のセット用に校則の許すギリギリのラインで髪は長めだが、そのせいでモッサとしていて自己評価でもいけてないルックスで学校生活を送っている。
社交的な性格でもないこともあり、スクールカーストでは、最底辺扱いのアキバ系オタクよりはマシかもしれないが限りなく同類に近い階層の住人扱いである。
本当はおしゃれには敏感で、将来はファッション関係の仕事に進みたいとか妄想しているのだが、学校では芋くさい一般ピー生徒のモブを装っている。
なぜか? それは…。
「プッ、今時V系かよ」
唐突に街中の人とのすれ違いざまに耳に飛び込む声。
それに一瞬、心がざわつくが、内心のざわつきを表の表情には出さず、気にしていないように歩き続ける。
今みたいにたまに耳に飛び込む声。それが俺が、本当の自分とも言える今の姿を学校では頑なに隠す理由。
早い話、V系ファッションは異端で少数派で、今の若い子の間では迫害の対象になるからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます