ささくれボウズ君(月光カレンと聖マリオ25)

せとかぜ染鞠

ささくれボウズ君

 8ミリリットル服用し 念じさえすれば 同じ薬を投与し訓練された動物たちが思いどおりの働きをする――それが共鳴薬の効能だ。人体への影響も懸念され,動物虐待も甚だしい。国の認可など論外だ。

 御法度薬と,薬の投与や訓練を受けた動物たちが,IT企業社長魔導まどう招鬼まねきと不動産王ウルゾゥとの間で売買されようとしていた。

 ぶちこわしてやったさ!

 港湾地帯のトランクルームに野積みされたコンテナを脱出した動物たちは,共鳴薬の保管されるコンテナの一切を破壊して逃避した。薬品容器は尽く割れ,中身は蒸発しながら夜気に紛れていく。

「あんたの仕業か!」魔導がささくれた指先をむけて怒鳴りちらす。

「再び共鳴薬の取り引きを企てたところで事は成就しない。成就しないどころか大損するのさ。おまえからも相手からも,しこたま奪ってやる」俺はウルゾゥのスーツ一式から錦織褌まで身ぐるみ剝がし,しあげに超密着かつらを戴く。

「金輪際関わらないでくれ!」つるつる状態のウルゾゥが逃げていく。

「取り引き相手をかえても同じだ。必ず妨害してやる」魔導から奪った数億の小切手を風に吹かせば,トラツグミが嘴でキャッチして飛びさる。

「ほかに相手がいるもんか! あいつだけが共鳴薬を捌くディーラーだった!」魔導が頭を抱える。「やっとあいつまで辿りつけたのに……」

「悪さはやめろ。真面目に働け」

「泥棒のあんたに説教されたかねぇよ!」

「キヨラコにとって特別な対象だから干渉するのさ。改心しないなら身をひけ。あの子のためなら俺は何でもするぜ」魔導の腕を摑みあげる。「強度のストレスがたまり心身に負担を来しているな――ひどい,ささくれだ」

 逆剝けを注視した魔導と目があう。

「親不孝でもささくれができると言うが?」

 うっせぇ!と魔導が腕を払う。

「そう,ささくれだつな――ささくれボウズ君」

「そんな風に呼ぶな,女装趣味の盗っ人なんかに関係ねぇ!」

 魔導は霧と共鳴薬の蒸気のたちこめる防波堤のむこうへ消えた。

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