第32話 これからの旅路は俺とマー君とで決めつつ……

――クリームside――



「クリーム」

「ん?」



川で洗濯していると、マー君が自分の洗濯物をタライに入れてやってきた。



「いやいや、寒いのに冷たい水で良く洗濯しているなと思ってね」

「そりゃ~さぁ……お湯で洗えるなら洗いたいけど、血とかってお湯つけると取れなくなっちゃうじゃん? 幾ら寒くても手でもみ洗いしないとさ」

「うんうん、何所までも主夫根性だねぇ」

「ふっふーん。トモカサと一緒に生活してた精霊族の隠れ里でもそうやってトモカサの分も洗濯してたんだぜ」



そう言って笑うと、マー君は「ほうほう」と言いながら俺に色々昔の話を聞いてきた。

俺とトモカサは、地上界で隠れ住む精霊族の住む森で生活して居た事や、長老に二人揃って育てて貰っていた事、そこで生きる為のアレコレを叩き込まれた事や、ある日突然旅立つ様に言われて旅立った途端、森が消滅したことを告げた。



「あの時はこの具現化の布に包まれて俺もトモカサも助かったけどさ……俺達が過ごした森は消滅したし、誰も生き残ってないだろうな……」

「………誰が攻撃してきたとかは解らないのかい?」

「さぁな、大方精霊族の王の部下がやったんじゃねぇの? それにしてもあの魔法の威力だ、一人じゃとても無理だろうし………数十人がかりだったのかも知れねぇな」

「クリームは、精霊王と戦う事になったらどうする」

「あ?」



そう問い掛けたマー君に、俺は自分のパンツを絞りながら暫く考えた。



「……ま、殺すだろうよ」

「……敵討ちかい?」

「ま、そんな所だな~……。それで残った精霊族たちで次の王を決めればいいさ」

「クリームに王になって欲しいと言われたらどうするんだい?」

「ははははは! まっさか、俺は王なんかに向いてねぇよ」



そう言ってトモカサのパンツを洗っていると、マー君は隣で自分の洗濯物を洗いつつ「そうかなぁ」と口にする。



「クリームなら良い王様になりそうだけどねぇ」

「ヤダよ、マー君も知ってるだろ? 俺庶民主義だし、主夫だし」

「そうだねぇ」

「王なんかに向いてねぇよ」

「だが面白い話を聞いてね」

「ん?」

「どうやら、この地上界に………精霊王の孫が生きているらしいよ」

「へ~……でもソレが俺とは限らないじゃん? 第一皆を殺した奴と血が繋がってるのが俺だったら流石に凹むぜ?」

「ははは」



そう言ってマー君は自分のパンツをギュッと絞って居たが―――。



「それでさ~マー君」

「ん?」

「いや、地底界を束ねる王様……と呼べばいいか?」



そう俺が口にすると、マー君は驚いた様子だったが俺は吹き出して笑った。



「あははは、何驚いてんだよ。精霊族の耳の良さを馬鹿にしたらダメだぜ?」

「……やれやれ、気づいていたのかい?」

「ああ、夜中に部下を何度も呼び出して色々話してるのを聞いたよ。だからマー君が精霊王の孫の話をしてくるだろうな~とは思ってた。んで? 世界情勢と精霊王の孫の話、俺には詳しく話してくれない訳? トモカサの親父さん」



そうニヤリと笑って言うと、マー君は「その事はあの子には内緒にね」と困った様に笑い、皆が居ないのを確認して今の動きを教えて貰う。



「内戦が勃発したのは知ってるけど、どうなんだ受け入れ態勢は」

「ああ、そっちの方は万全だよ。もうかなりの人数の精霊族が地底界のとある地域に避難している。安心しなさい、地底界の人間は荒いと他の界では言われているが、皆優しく穏やかな人間ばかりだし、私が信頼している部下を数名置いてあるし、もし何時精霊界からの刺客が来ても良い様に魔方陣を張ってある」

「そりゃ大層なこったな」

「だがこれで確実に精霊界と天上界は手を結び、地上界に刃を向けるだろう……。ラルアガース王が亡き今、この地上界はとても脆いし……王子を血眼になって探す事も始まる」

「……となると、今まで通りの旅は無理だな」



そう言うと溜息を吐いて洗濯物を終わらせた俺は立ち上がり、糸を張った場所に洗濯物を干していく。

今日は天気が良い……洗濯物もよく乾くだろうな~と……少し現実逃避をしたが、やはり気になるのは今後の事だ。



「旅を続けて天上界の者達を殺しまくっても意味はない……か」

「そうなるね」

「カリンだけでも地底界に保護は?」

「どうかな」

「…………」

「トモカサも……危険になるだろう」



その言葉に目を見開きマー君を見つめると、マー君は大きな溜息を吐いてトモカサの素性を話してくれた。

トモカサは今まさに戦争を仕掛けようとしている天上界のロニエム王の一人娘であるフィーナとの間に産まれた自分の息子だと言う。

つまり………トモカサは天上界の王と地底界の王の血を受け継ぐ子供と言う事になる。

だとすれば、強い回復魔法が使える事やとんでもない攻撃魔法、更に召喚魔法が使える事に対しても納得が行く。

そして……何故トモカサが危険なのかも、これで明らかになった。



「………つまり、トモカサの爺ちゃんが戦争を仕掛けた張本人で、幼いトモカサを殺そうとしたと……」

「そうなる。そして何とか私が振り絞って放った魔法のお陰で君達が居た森の近くに逃げ延びることが出来た」

「…………」

「それと精霊王の孫なんだがね……避難した精霊族の中にとある老人が居て話してくれたそうだ」

「老人……?」

「かなり火傷の痕が痛々しい老人らしいが、幼い君達二人を育てていた長だよ」

「爺ちゃん生きてたのか!!」



そう大声を出してハッと口を押えたが、皆は素材集めに行っていていなかった為ホッと胸を撫で下ろすと、俺の横で洗濯物を干すマー君は微笑んで俺を見た。



「君の事をとても心配していたそうだよ。それともう一つ」

「?」

「君の素性も……明らかになった」



そうマー君が真剣な表情で俺に告げると、俺は唾を飲み込みマー君を見つめる……。



「聞く勇気があるかい?」

「………怖くないと言えば嘘になる。 でも、今後の事を考えればそんな生っちょろい事を言ってる場合じゃねぇんじゃね?」



―――ある意味強がりだったかもしれない。

でも、爺ちゃんが頑なに俺が聞いても教えてくれなかった事が聞けるんだ……そして俺にはそれだけの立場の人間なんだろうと言うのはこの年になれば容易に想像がつく。



「……クリーム」

「…………」

「君は……………君はっ」

「ドンッと言ってくれよ、もったいぶられた方がキツイぜ?」



そう言って溜息を吐くと、マー君は大きく深呼吸した後―――俺の両肩に手を乗せて言う。


―――俺は……その精霊王の孫なんだと………。


………覚悟はしていた。

精霊族の癖に殺傷すると言う残酷な事が簡単に出来る事についても、コレで納得出来る。

だが、それ以上に驚いたのは―――俺の母親の事だった。



「君は精霊王の息子の子である事は間違いない事実だ。そして君のお母さんは………地上界の人間らしい」

「オイオイ、俺もハーフかよ」

「まぁそうなるね。トモカサとお揃いだ」

「あ、そう言われたらなんか良いな、うん」

「はははは。だからクリームは補助魔法や弱体魔法に長けているんだよ、分ったかい?」

「なるほどねぇ~……で? 俺が精霊王の孫ってのは反乱軍や避難を求める精霊族は知ってる訳?」

「残念ながら皆さんご存知だそうだ」

「うへぇ………」

「何とも面白いパーティじゃないかい? 精霊王の孫のクリーム、地底界の王と天上界の王の血を引くトモカサ、ラルアガース王の息子のカリン、まぁ唯一私も頭を悩ませているのがリオだがね」

「確かに、人間同士の子供の筈なのに地底界の姿ってのは普通ならありえないもんな。 それと暗黒魔法が簡単に出せるって時点で何か引っかかるモノはある」

「流石鋭い分析力」

「んで、俺の本名について話はなかった訳?」

「ああ、その名前は聞いてきたよ。知りたいかい?」

「まぁ、父ちゃんと母ちゃんが付けた名前なら聞いておいて損はねぇだろ」

「宜しい。クリーム、君の本当の名前は………【アユカ】だそうだ」

「アユカ……ねぇ」

「だがこの本名については、君を育てていた長老も皆には秘密にしているらしい。王になった時にこそ相応しいと言ってね」

「何だよ爺ちゃん、俺に王になれってのかよ……」



そう言って頭を抱えると、マー君は笑いながら俺の肩をポンポンと叩いた。

でも、ある程度の事は夜中に聞き耳立てていたおかげでショックは少ないし、何よりトモカサと俺の素性も分かったと言うのもあり何所かスッキリした気分でもある。



「ん―――……全員揃って地底界に行くにしても、地上界の事も心配だしなぁ」

「そうだねぇ……せめて地上界の皆が立ち上がってくれるくらいは無いと困るねぇ」

「となると……やっぱりカリンは外せないか。ラルアガース王国は遠いし、魔方陣で飛ぶにしてもカリンが納得しないだろうな」

「そうだね、所でクリーム」

「あ?」

「余りショックを受けていないようだが……?」

「ああ、なんか反対にスッキリしたよ。それにマー君が言いたいのはアレだろ? 自分の本当の爺ちゃん殺す事になるのに大丈夫かって言いたいんだろ?」



そう呆れた様子で口にすると、マー君は苦笑いしながら「そうだよ」と口にする。



「あのな~……俺の父ちゃんと母ちゃん殺して、更に俺も殺そうとして、その更に地上界に逃げてた精霊族を殺そうとする奴だぜ? 血が繋がってるとしても無問題、裁きは必ず降るだろ」

「全く……君は本当に十五歳かと驚いてしまうよ。 普通なら割り切れないだろうに」

「割り切る、割り切れないじゃないんだよ。どう考えてもどっからどう見ても明らかに可笑しいだろ? だったら俺が裁きを降す事が起こったとしても別に気にしねぇし、俺は俺と言う一人の人間として行動するの、分った?」

「はいはい」



そう言ってクスクス笑うマー君に溜息を吐くと、マー君は干し終わると地面に腰かけ遠くを見つめる。

そして―――。



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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

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モグリでバグ持ちお人よし人形師は、古代人形の陰に隠れる

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