第29話 マー君とその部下とその〇〇のトモカサと。
――マー君side――
皆が眠りについたその夜、私は一人テントから出ると少し離れた場所で一人の男を呼び出した。
魔方陣の中から現れたのは、私の右腕とも言える男で、私としても信頼を寄せている者でもある。
「やぁやぁ、こんな時間帯にしか呼び出せなくて申し訳ないね」
「いえ」
そう言って膝付き私に頭を下げる部下に、私は笑顔を向けた。
「王子は見つかりましたか?」
「ああ、一緒に旅をしているよ」
「それは良かった……一目でも王子のお顔を見たい所ですが、この時間です。御就寝されておられるでしょう」
そう言う部下は、一度息子であるトモカサを見た事がある。
家族がバラバラになったあの日……本来なら妻のフィーナと息子のトモカサは地底界に行く予定だった。
地底界で生活する方が安全だと言う事もあり、私の部下たちも地底界もお祭り騒ぎだったし、何より私の父が大はしゃぎで大変だったのを思い出す。
その時この部下も居たのだが、フィーナの父親にバレテしまい私も部下も深手を負ってしまった。
その事で、部下はそれから死物狂いで攻撃魔法と剣術の鍛錬に励んだが、何時も息子の事を心配していたのは私も知っている。
「それで、何か国での動きはあったかい?」
「地底界の方は静かではありますが、天上界の動きは国民全てが把握しております。王が不在と言う事も皆知っているようですが、皆陛下の帰還を祈っている様です」
「うんうん、部下がしっかりしているからね。私も安心して地上界で息子やその仲間と旅が出来ているよ。 仲間の中には精霊族の男の子とラルアガース王の一人息子、そしてどうやら訳ありな少年が一人いるね」
「恐縮です。精霊族とラルアガースの王子が一緒なのですか」
「そうだよ? それで精霊界の話は聞いていないかな? どうやら王が天上界の者と手を組む話があるらしいんだが」
「精霊界の方には部下を偵察に行かせておりますが、内戦が始まっている様です」
「内戦か……」
「王のやり方に暴動を起こしている者達が多い様ですが、精霊王は無差別に反乱軍とその家族を殺していると言う情報が入ってきております」
そう語る部下に、私は腕を組んで「ふむ」と口にする。
反乱軍の中には強い魔法を使える者も多いだろうし、何より無差別に殺されているのならば放っておくことは出来ない……。
「………ではこうしよう。反乱軍に使いを出し、一時地底界への避難を促すんだ。それと避難を求める精霊界の市民の受け入れ態勢を整えてくれ」
「畏まりました」
「天上界と精霊界が手を組む方向で進んでいるのは悲しい事だが……まぁ、難民の受け入れで確実に手を結ぶだろうが死者をこれ以上増やす訳にはいかない。それに精霊王は昔から何所か可笑しい方ではあった。何せ一人息子とその妻、そして孫を殺しているからね。 永遠の命でも手に入れたのかな?」
そう言って溜息を吐くと、部下は何も言わなかったが私は息子が眠るテントを見つめた。
「取り敢えず、早急に使いを出す事と精霊界の市民の受け入れ態勢を行ってくれ。それと、避難民が心安らげる様に……頼んだよ」
「はい」
「それで、もう一つ頼まれてはくれないかな?」
そう部下に声を掛けると、部下は首を傾げて私を見上げた。
「まだ息子には私が父親と言う事を告げていないんだ。もし息子と会っても秘密にして欲しいのと……私が地底界を束ねる王である事も伏せておいてくれ。名前も今の所伏せてるんだ」
「解りました」
そう話を終えた時、トモカサとクリームが眠るテントから息子が眠そうな目を擦りながら出て来た。
これには私もドキッとしたが、一番驚いて目を見開き固まっているのは部下の方だ。
「お……おう、」
「コラ」
「申し訳ありません!!」
「ん?」
このやり取りに反応したトモカサがフラフラしながら私たちの元へと歩いてくると、眠気眼で私と部下を見てくる。
「あれ……? マー君どうしたの? このおじさんは?」
「ああ、私の部下でね。ちょっとしたお願いをしていた所だよ」
「ふーん……夜遅くまでお疲れ様」
そう言ってほにゃ~んとした笑みを浮かべると、部下は大粒の涙をポロポロと零して唇を噛んで耐えている。
「……大きく成長されて……感無量ですっ」
「ん?」
「では失礼致します!」
そう言うと部下はマントに描かれた魔方陣に触れると目の前から消えたが、トモカサは首を傾げて「ん~?」と口にしている。
「何で泣いてたんだろう……?」
「ささ、トモカサも早く寝なさい。今日はヘンドリムへの旅立ちの日だよ?」
「トイレしたら寝る~」
そう言うと草むらに入って行ったトモカサを見て微笑むと、部下のあの泣き顔を思い出して私としても胸が詰まる思いだ。
しかし―――そこでハッと我に返る。
部下がトモカサを見たと言う事は、きっと父にも話が行くだろう……。
「うーん……天上界の者に見つかるよりも危険だなぁ……」
精霊界の事も気になると言うのに……。
そう思って溜息を吐くとトモカサは草むらから出てきて「おやすみ~」と言ってテントに入って行った。
悩んでもしょうがない。
私もその夜はテントに入り早々に眠りについた頃――――。
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